SUPER EIGHT 村上信五、“大人アイドル像”をどう変えていく? 『半分論』から思考を読み解く

情報過多な時代にこそ輝く、村上信五の強さ

 『半分論』ではいくつもの「思考実験」も展開される。文字なのに、まるで村上が身振り手振りを交えて説明してくれるような臨場感があるのも、また楽しい。「どうしたら伝わるか?」と村上自身がこの本で実験をしているとも思える。

 そんな村上らしさを感じるのと同時に、読み進めながら「思考する」という動作にもし筋肉があるとしたら筋肉痛のような刺激を感じた。思考を続けることで、この「思考筋」が地道に鍛えられていく。次第に考えるべきことと考えなくていいことの境界線が、徐々にクリアに見えていくようになるのだろう。自分が何に注力するべきなのかが見えてくると、より動きやすくなる……という好循環が生まれるというわけだ。

 そして思考筋を鍛えながら実践し、エラーを修正していくうちに、選択の精度そのものが上がっていっていく。ときには、誰かに相談することで選択の負荷を半分持ってもらうというのもアリ。あるいは、自分の力ではどうにもならないこともあると割り切り、半分上手くいけば御の字だと軽やかに構えることも。

 いい選択をしたと思える経験はやがて自信になり、心が安定していく。その安定した心は、異なる考えを「白だ」「黒だ」と瞬間的に突っぱねることなく、いい塩梅のグレーゾーンで受け入れられないかと思考する余白を生むのだ。

 作中にあった「心境の把握とコントロールの連続こそが成長」「実践と修正を繰り返しながらコントロール出来る事が大人の定義の一つ」という村上の言葉に痺れた。世の中、思い通りなどいかないし、100%完璧な正解もない。日々生まれる迷いの中で自力で考えるよりも先に、AIに聞くほうがハードルが低く感じられる。

 そんな時代だからこそ、自分の頭で考え、全力疾走しながらも半分は肩の力が抜けている状態でいるという、絶妙なバランス感覚を持った村上が眩しく感じる。これからもジャンルレスに活躍する村上が、令和の大人アイドル像をバージョンアップさせていく姿を楽しみにしている。

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