【漫画】漠然とする勉強に意味はある? 本を読み漁る吸血鬼と少女のエモい青春物語『灰になるまで』
共通する軸は「死にたい」ではなく「探している」
――なぜ『灰になるまで』を制作したのですか?
雉野:大学の授業で「人物と場所設定をそれぞれくじで引き、出たものでログラインを書こう」という課題があり、そこで“図書館”と“吸血鬼”のくじを引いたのがきっかけです。自分で書いたログラインを見て「これは長編向けだな」と思い、新人賞の原稿に使おうと考えました。
――“図書館”と“吸血鬼”という珍しい組み合わせには、そういった経緯があったのですね。
雉野:はい。それから「図書館は調べ物をする場所」「吸血鬼といえば太陽に当たると灰になって死ぬ」という、2つのキーワードから最初に連想される部分をつなげました。また、吸血鬼の設定は創作によってさまざまですが、死に方はどれも痛そうなので、「もっと楽な方法はないものか」と普段から考えていたことも組み合わせました。
――一見対立している「死にたい」「宇宙飛行士になりたい」という2人の夢を軸に展開した理由は?
雉野:「死にたい吸血鬼の手伝いをしてくれるのは誰だろう」と考えたとき、最初は自殺願望のある子にしようと思いました。しかし、それだと吸血鬼と同じになってしまう。そこで、共通する軸を「死にたい」から「探している」に変更し、“未来を探しているが、実感を持って考えられない中学生”を登場させることにしました。
――着々と世界観や登場人物が 決まったようですが、ストーリーも順調にできたのですか?
雉野:かなり苦戦しました。当初は「最後はドカンとハッピーエンドで締めたい」と考えていたのですが、そこに行き着くまでの構想がぼんやりしていました。最初のネームは本当に見ていられないものだったと思いますが、担当編集者さんとたくさん相談しながら何度も直してストーリーを完成させました。
“だらけていたひと夏もかけがえのないもの”として描こう
――紗奈とミカイの誕生背景を教えてください。
雉野:まず「紗奈はとにかく情けない子にしよう」と思い、黒髪で前髪が短く、体格は良いのに小心者の女の子にしました。一方、ミカイはその反転として、白髪で前髪が長く貧相な身体をした態度の大きい女の子にしました。また、紗奈は「中学にこういう子いたな」と思えるようなデザインを心がけました。
――2人の会話がメインでストーリーが進行していきますが、人間と吸血鬼の会話ですので、セリフを考えるのに苦労したのでは?
雉野:もともと会話劇が好きなので、セリフを考えるのに苦労はしませんでした。また、ミカイは確かに人間ではありませんが、何百年も生きてきたので、「日常会話が噛み合わないほど常識がない」とは思っていません。ただ、紗奈はミカイをファンタジーな存在として憧れているので、ミカイをあまり否定させないように意識して描きました。
――2人の葛藤はとても丁寧に描写されていましたね。
雉野:「やりたいと思っているけど面倒くさいし、失敗が怖いからしない」というのは、誰しもが経験したことがあると思います。加えて「やれば?」で片付けられる経験もセットだと思います。しかし、生産性のない傷の舐め合いが無意味だとは思わないので、「この2人が“だらけていたひと夏もかけがえのないもの”として描こう」と努めました。
――心理描写や会話劇だけでなく、ミカイが太陽光を浴びているシーンの作画も印象的でした。
雉野:できるだけ紗奈の顔は描かず、読者がミカイの顔に集中するように描きました。怠慢は楽ですが窮屈なものなので、狭い図書館から自ら抜け出した開放感とともに、「今までのツンとした表情から、ふにゃっとした笑顔に変わったことが伝わればいいな」と思っています。
――最後にこれからの漫画制作をどのように進めていきたいですか?
雉野:卒業までは今まで通り、学業の合間に新人賞用の漫画を制作する予定です。早くデビューしたいですね。夢は貯金して、耐震性に優れた一軒家を建てることです!
©雉野金地/講談社