うんこと人類の文化史 武器に飼料に……さまざまに有効活用してきた日本人、世界一高価なうんこって?

■栄養価が高く肥料家畜の飼料に使われたことも

  人のうんこは栄養価が高いため、肥料ではなく家畜の飼料として使われた例もある。中国を発祥とし、沖縄、韓国、インド、ベトナムなどでも見られる豚便所である。うんこをすると、豚囲いにうんこが運ばれ、うんこはそのまま豚の餌になるというシンプルな仕組みである。人間1万人のうんこは牛400頭を肥育するに足るとの研究もある。懸念すべき点があるとすれば、うんこを食べた家畜の肉を食べられるのかという感性上の問題であろう。

  ノンフィクション作家の角幡唯介氏は『極夜行』で、極夜のグリーンランドを探検した際、何度も悪天候などのトラブルに悩まされ、食料への不安から、犬ぞりを引かせるために連れて行った犬を食べる可能性を考えている。ただ、ドッグフードの不足から犬が角幡氏のうんこを食べていたため、「俺の糞ばっかり食っているから肉も臭くてまずいだろうなぁ」とも考えている。角幡氏の感性が決して変わっているわけではなく、実際に同じ状況になったらそう考える人は少なくないだろう。

  珍しい例だが、肥しや飼料としての活用ではなく、うんこそのものに高額が付いた例がある。うんこが化石化したものを糞石(ふんせき)と呼ぶが、1972年にイングランド北部のヨークで発掘された糞石は2万ポンド(約320万円)の値が付いたそうだ。世界一高価なうんこである。なお、その糞石は9世紀のヴァイキングの落とし物が化石化したものであることがわかっているそうだ。長さ 20センチメートル、幅5センチメートルなので、かなり立派なうんこである。件のうんこは現在は発掘地であるヨークのヨルヴィーク・ヴァイキング・センターに展示されている。イングランドの離島であるワイト島には「国立うんこ博物館(THE NATIONAL POO MUSEUM)」が2016年にオープンしている。

  漫画『インハンド』では主人公の紐倉哲が糞石から古代の人類が昆虫食をしていたことが判明しているとのエピソードを紹介している。同作で紐倉は腸内フローラの状態を確認するため、自身のうんこを毎日採取して冷凍庫に保存している。うんこから人類の歴史がわかるし、健康状態の判断材料にもなるのだ。うんこは人類を滅ぼしかねない不潔さの一方で有用でもある。

 またこれは、有用なのか無益なのか判断に迷うところだが、音楽史上に残る天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはうんこが大好きだった。彼が残した書簡には特に意味もなく「うんこ」という単語が頻繁に登場する。モーツァルトは「俺の尻をなめろ」というカノン形式の声楽曲を残しているが、作曲当時のモーツァルトは26歳の成人である。とても大人の発想と思えないのだが、下ネタは彼にとって重要な創作の源泉だったのだろう。

 最後に少々蛇足だが、おしっこも実は使いようで、古代ローマでは洗濯におしっこが使われていた。ローマの公衆トイレは二種類あり、暖房設備まで兼ね備えた「クロアキア」という立派なものと「ガストラ」と呼ばれる路ばたに壺を埋めただけの簡素なモノがあった。洗濯業者は桶や壺をあちこちに埋めておき、その尿を回収していた。おしっこを数日放置しておくと、腐敗してアンモニアに変化する。これが洗濯ものから出てくる脂と混ざると、液体石鹸になる。不潔なように見えるが、おしっこで洗濯するのは実は理にかなっているのだ。日本の白川郷ではでは黒色火薬の原料になる硝石を作っていた歴史があるが、硝石の原料は蚕の糞と草を燃やした灰と人のおしっこだったそうだ。白川郷の和田家住宅にその記録が残っている。

 「馬鹿とはさみは使いよう」という諺があるが、「うんことおしっこも使いよう」なのである。

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