『SAKAMOTO DAYS』人気の理由は“少年漫画のトレンド”の妙 『葬送のフリーレン』『銀魂』との共通点を考察

 『SAKAMOTO DAYS』がアニメ化され、注目が集まっている。

 鈴木祐斗が2020年から週刊少年ジャンプで連載している『SAKAMOTO DAYS』(集英社)は、元殺し屋の坂本太郎が主人公の漫画だ。

 坂本は伝説の殺し屋として裏社会で恐れられていたが、葵という女性に恋したことをきっかけに殺し屋を引退。その後、坂本は葵と結婚し、娘の花を育てながら坂本商店を営む幸せな日々を過ごしていた。だが、かつての部下で「他人の心の声を読む」能力を持つ殺し屋・朝倉シンが坂本の前に現れたことで、坂本は新たな戦いに巻き込まれることになる。

 本作の見どころは、何といってもアクションシーンだろう。坂本は『SLAM DUNK』(集英社)の安西先生を彷彿とさせる太ったおじさんだが、元・殺し屋としての優れた身体能力はいまだ健在で、最小限の動きで殺し屋たちを次々と撃破していく。

 第1話では、坂本とシンが坂本商店で戦いを繰り広げるのだが、商品棚を間に挟んだ狭い空間の中で銃を撃つシンに対して飴玉で迎撃する場面は見応えがあり、少年誌では珍しい地に足のついたバトルとなっている。

 見応えのあるアクションシーンが毎話描かれるのだが、ロケーションを活かした空間の奥行きを感じさせる決めゴマが毎回用意されており、ナイフや銃といった武器だけでなく、飴玉やボールペンといった身の回りにある小道具を駆使して戦うのが本作の面白さとなっている。

 空間と小道具を活かしたアクションを観る度に、作者は実写映画的なセンスを持っている人だと感心するのだが、漫画としてはコマ割りによって動作の流れを省略することで、逆に動きを想像させる演出が上手い。

 殺し屋同士のバトルは、銃やナイフを用いた一撃必殺の攻撃の応酬となるのだが、相手の隙をついて攻撃を仕掛ける瞬間を捉えたカットが実に見事である。何より瞬殺が続くため、物語のテンポが良い。こういったアクションの心地良さは、アニメでも健在だ。

 第1話終盤では、坂本殺害を依頼した殺し屋一味を裏切ったシンが、坂本と共闘して殺し屋一味と戦うのだが、原作漫画にあったコマ割りの快楽を残しつつアニメ版ならではのアクションが多数追加されており、動きの快楽で見せるアニメならではの心地よさと静止画の連続で行間の動きを想像させる漫画の良さの両方が揃った理想のアクションに仕上がっており、今後のアクションシーンも期待したくなる。

 また、坂本の声優は杉田智和が担当しているのだが、杉田が声を担当したジャンプアニメというと『銀魂』の主人公の銀さんこと坂田銀時を思い出す。

 『SAKAMOTO DAYS』は現代を舞台にした殺し屋の話で、主人公の坂本は寡黙な太った男。対して『銀魂』はSF時代劇。銀さんも饒舌で坂本とは真逆の性格だ。そのため『銀魂』と『SAKAMOTO DAYS』を重ねることはこれまでなかったのだが、元・殺し屋で今は商店を営んでいる坂本と、かつて白夜叉と恐れられた攘夷志士で、現在は万事屋というなんでも屋を営みながらダラダラとした日常を過ごしている銀さんには、意外と共通点が多い。何よりこの2作の共通点は、戦いから一度降りた男が、家族や仲間と暮らす、何て事のない日常を守ろうとしているところだろう。

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