【漫画試し読み】これぞ小田扉の真骨頂! 不条理系日常シュールギャグ『たたかいのきろく』のクセになる読み味

 炸裂する小田扉節! これぞ小田扉漫画……と言いたくなるような短編集が2025年1月9日に刊行される。webアクションでの連載をまとめた『たたかいのきろく』である。

『たたかいのきろく』第1話を読むには画像をクリック

 長期連載だった『団地ともお』で広く知られる漫画家、小田扉。その作品の魅力は、シュールながら妙に理屈っぽいところにある。現在の作風は、無理やりネーミングすれば「不条理系日常シュールギャグ(例外あり)」みたいな感じになると思うが、肝心なのは「不条理」の部分に独特の「条理」が埋め込まれていることなのだ。

 小田扉のギャグは、ごく普通の日常に立脚していることが多い。宇宙人などがネタになる時もあるが、その宇宙人たちも妙に所帯じみていたりして、我々の日常的な風景や感覚に近いところがあったりする。そんな日常的な風景や物事から出発しつつ、妙な理屈の上に妙な理屈が積み重なって、最終的によくわからない地点に辿り着き、しかし結末はなんだかきれいにオチている……。この「妙な理屈に裏打ちされたストーリーによって、よくわからないところに連れていかれる」感じこそが、小田扉作品の独特なテイストになっていると思う。単に不条理なわけではなく、作品内で理屈が通っているのがミソなのだ。

小田扉『たたかいのきろく』(双葉社)

 その意味では、『たたかいのきろく』は非常に小田扉らしい作品が詰まっていて、『こさめちゃん』以来のファンとしては嬉しくなってしまう内容だ。タイトルの通り、この短編集の題材は「たたかい」である。人間関係あるところに争いあり。ちょっとしたことで始まってしまう団地の北棟と南棟の抗争から、人間の頭の形をした植物の繁殖争い、雑な罵詈雑言でケンカをする男子二人を観察し続ける女子などなど、1話にひとつ、なんらかの「たたかい」が題材となっている。

 その「たたかい」の様子が、なんとも小田扉作品らしい。たたかいである以上、バトルの過程があり、勝ち負けの決着があり、勝者と敗者が存在する。その過程も、勝敗も、なんだか妙な理屈や不思議な存在が介在しており、読んでいくうちにどんどん変なところに連れ去られるような感じがある。でも、1話通して読むとちゃんとオチていて、不思議と読後感はいい。シュールギャグといえばそうなんだけど、単に不条理なだけではなく、作品世界内に独特な「理屈とルール」が存在する手触りがある。まさに小田扉作品の真骨頂、職人芸的な面白さである。

 もうひとつ書けば、「たたかいゆえに勝敗がある」という点が、いつもの小田扉作品よりさらに奥行きのある味わいをもたらしているのも、本作の特徴である。基本的に、小田扉の漫画は人に優しい。物事がうまく行かなかった人にも、どうしようもない人にも優しい。敗者がどうしても存在する「たたかい」を題材にする上で、この人間への目線の優しさが独特の読後感を生み出している。

 特に第6話「確執!創業家!」に漂うペーソスには、小田扉作品の理屈っぽさと優しさがにじんでいるように思う。この作品には、小さな食堂からスタートし、今では巨大な飲食チェーンになったという「須田食堂」の創業者一家の確執が年代を追って綴られている。出てくる食べ物のよくわからなさや配膳ロボットの群れなど、小田扉っぽいシュールな要素もパンパンに詰められているが、話のコアになっているのは「とある食堂を経営する一家の愛憎劇」である。

 終始こんな感じで、どの作品も道具立ては奇抜ながら人間の感情のベーシックなところを拾い上げているところがあり、読み終わると「なんだかよくわからないけど、いい話だったような気がするな……」という気持ちになる。この笑っていいのかしんみりしたらいいのかよくわからない読後感こそ、小田扉作品の味わいであるように思う。シュールと人情が同じ部屋に同居しているのである。

 そんな、本作でしか味わえない読後感の作品ばかりが収録されている『たたかいのきろく』。まずは試し読みをご覧いただいて、気に入ったのならばぜひとも全話読んでいただきたい。小田扉作品ならではのユニークな読み心地は、きっとクセになるはずだ。

■書籍情報
『たたかいのきろく』
著者:小田扉
価格:836円
発売日:2025年1月9日
出版社:双葉社

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