橘玲「小学生に株の話を教えてもしょうがない」 お年玉シーズンにこそ学びたい、本当に役立つ“お金持ちになる方法”
ゲームのルールを知らないと攻略できない
ーーお正月に子どもにお年玉をあげる時、どういう話をすると学びになりますか。
橘:お年玉を使ったゲームをしてみるといいでしょう。お金を渡した後に「1週間待ったら、プラス100円をもらえるけれど、それならばどうする?」と問いかけてみるんです。待つことにはコストがかかるということがわかれば、なぜお金を銀行に預けると利息がつくのかを学ぶことができます。
マシュマロテストという有名な社会実験があります。4歳くらいの子どもたちを集め、目の前にマシュマロを置き、「今すぐ食べずに15分我慢すれば、もう1個マシュマロをあげる」と言うんです。すぐに食べてしまう子もいれば、我慢してもう1個もらった子もいました。その後、大人になるまで観察すると、マシュマロを我慢した子どものほうが明らかに社会的・経済的に成功しているんです。
これは、パーソナリティのうちの「堅実性」を予測しているからです。子どもは誰しも、目の前のマシュマロを今すぐ食べたいと思うでしょう。でも堅実性スコアが高い子どもは、15分後にはマシュマロを2個食べている自分を想像できるから、誘惑に打ち勝つ方法を試してみる。目を閉じてみたり、背を向けて見えないようにしてみたり。ちなみにマシュマロの底をくり抜いて中身だけ食べる子もいたようで、完全にルールを理解した上で、ハックする発想ができるのは凄いと思いました。この子どもが将来どうなったのか、興味深いところですが。
ーーまだ幼い頃の結果でも、大人になって違いが出てくるわけですね。
橘:未来の自分にとってよい選択をできる子どもが成功するというのは、道徳的な善悪の話ではなく、産業革命以降に作られた知識社会がそういう仕組みだからなんです。真面目に勉強してよい点をとる。よい学校に進学する。会社で上司の言うことを聞いて仕事を頑張る。いずれも、現在の自分をある程度犠牲にして、将来の自分にとってよい選択をしているわけです。戦争や内乱などで未来の予測が難し社会なら、今の利益を第一に考えるほうが、生き延びる確率は高かったかもしれない。でも現代のような豊かで平和な社会なら、5~10年後、あるいはずっと先の自分を想像する力があるほうが、有利になってくるわけです。
ーー今の小中学生が大人になる時代には、どんなスキルが重要になるでしょうか。
橘:小さな子どもを持つ親によく聞かれる質問ですが、原則は、ロールプレイングゲームと同じで、ゲームのルールを知らないと攻略できないということ。社会の基本的な仕組みを知らないと、いろんな人に言われるままに右往左往することになってしまいます。
これからはAIが発達すると、そもそも勉強とは何かということが問われてくると思います。高校や大学の試験問題もChatGPTのほうがうまく解けるようになれば、「四則演算はもちろん、微分や積分もAIにやらせればいいのでは?」となるでしょう。「リモコンのボタンを押せばテレビが映るのに、テレビがどういう仕組みで映るのか勉強しないといけないの?」と聞かれたら、普通は「そんなことする必要ないよ」と言います。それと同じで「数学の問題は全部AIが答えてくれるのに、なんで勉強しなきゃいけないの?」と聞かれたら、答えに窮してしまうところがあります。
でも、この本でも解説したように、これからはAIを上手に使いこなせるか否かで、大きな差が開いていくでしょう。今やAIの能力は将棋の有段者を上回りますが、しかしそのAIよりもさらに強いのが、AIとプロ棋士がタッグになったチームだそうです。AIの合理性と人間の直感を組み合わせることで、より精度が高くなっていく。そのようにできる人が大きな成功を収めるのではないでしょうか。
■書誌情報
『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの? ――人生という「リアルなゲーム」の攻略法』
著者:橘 玲
価格:1,760円
発売日:11月27日
出版社:筑摩書房