『薬屋のひとりごと』なぜメガヒット作品に? 異色の「なろう系」が切り拓いた新ジャンル

他作に与えた影響

『薬屋のひとりごと』の大ヒットは、後宮や王宮を舞台に謎解きをテーマにした作品を増やす状況も引き起こした。ライトノベルのようにキャラクター性を強く打ち出しながらも、異世界転生やラブコメといったライトノベルで主流となったジャンルから離れた作品を引き取り、刊行するようになったキャラクター小説なりライト文芸と呼ばれるカテゴリーで、幾つもの”後宮医療ミステリー”と呼ばれるような作品が出ている。

 例えば、第6回角川文庫キャラクター小説大賞で大賞と読者賞を受賞した小野はるか『後宮の検屍女官』(角川文庫)は、中華風の国にある後宮で働くちょっぴり怠惰な女官が、事件ともなると活発になって持ち前の検屍の知識で謎を解き明かしていくストーリーで、猫猫とはまた違った活躍ぶりを見せてくれる。甲斐田紫乃『旺華国後宮の薬師』(富士見L文庫)は、苦くない薬を求める皇帝に応えようとする後宮の薬師が王宮の陰謀に挑む。どちらも巻を重ねて人気の作品だ。由緒正しい宮廷医の家に生まれた娘が、どんな病も治すという闇医者と知り合い、後宮などで起こる難題に挑む冬馬倫『宮廷医の娘』(メディアワークス文庫)も巻を重ねている。

 中華風の世界が舞台ということなら、TVアニメ化された白川紺子『後宮の烏』(集英社オレンジ文庫)が人気で、他にも毎月のように新作が送り出されている。喜多咲子『捨てられた皇后は暴君を許さない~かくも愛しき蟠桃~』(集英社オレンジ文庫)は放蕩を続ける皇帝に変わって政(まつりごと)を行っていた聡明な皇后が、皇帝によっていったん放逐されたもののそこに未来から来たという人物が現れ、国を救うために奔走するというSF仕立ての作品まで登場している。

「後宮」なり「中華風世界」をライトノベルやキャラクター小説の世界に身近にし、ミステリー的なストーリーを太い流れにしたと言える『薬屋のひとりごと』。その人気の先で、並び立つような作品が登場してくるのかが気になるところだ。


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