「こだわり」がイラストの邪魔をする? 細部まで描き込まれた“イケメン高校生”がプロの添削で劇的変化

 レアカードの高額化も度々話題になる「ポケモンカード」の公認イラストレーターとして多数の人気キャラクターを手がけ、イラスト上達法に関する多くの著書を持つさいとうなおき氏が、自身のYouTubeチャンネルで展開する「添削動画」が人気を博している。

 さいとう氏は2019年10月1日、YouTubeチャンネルを開設。イラストレーターを目指す初心者に向けた講座のほか、上達のための具体的なアドバイスを送る「気まぐれ添削」シリーズで人気を高めてきた。クリエイターの個性に寄り添いながら、プロならではの視点でアドバイスを送る動画は、自分ではイラストを描かない人にとっても、審美眼が磨かれる貴重な内容だ。

 最新の添削動画は、「【気まぐれ添削182】こだわりが絵の邪魔をすることがあります!」と題されたもの。「こだわり」はクリエイターになくてはならない要素に思えるが、それが「絵の邪魔をする」というのも感覚的に理解できることだ。果たして、どんなイラストがどう添削されたのか。

【気まぐれ添削182】こだわりが絵の邪魔をすることがあります!【漫画賞のお知らせ】

 この動画で取り上げられた作品は、高校生のクリエイターが文化祭向けに描き下ろしたという男子生徒のイラストで、タイトルは文化祭のテーマだった「桜梅桃李」。桜、梅、桃、李(すもも)を表し、それぞれの花にはそれぞれのよさがあり、他人と比較せず自分らしく生きようという意味がある。この言葉に合わせてイラスト全体をピンク色にまとめたが、学校の先生に「どこを見ればいいのかわからない。見栄えがしない」と指摘されてしまったという。添削は「スパルタ希望」だ。

 素人からすると、一見して優れたイラストに思える。男子高校生はカッコよく、木洩れ陽の描写が美しい。さいとう氏も「描写力がある。細部の描き込みも十分すぎるほどされていて、こだわりが見えます。とても素晴らしいと思いました」と評価。それでは何が問題で「見栄えがしない」のか。さいとう氏は、学校の先生の「どこを見ればいいのかわからない」意見が的を射ていると語った。問題をひとことで表現すると、「こだわりポイントが絵の主題を邪魔している」のだという。作品の主題は明確なのに、作者が描きたいポイントが強調された結果、どこを見ればいいのかわからなくなる……というのは、“イラストレーターあるある”のようだ。逆にいうと、今回の相談者は主題をしっかり設定できており、画力もこだわりもあるため、「自我のコントロール」がうまくなれば「信じられないくらいレベルアップできる」と、さいとう氏は太鼓判を押した。

 詳しくは実際に動画を観ていただきたいところだが、さいとう氏はまず、腕のライティングからメスを入れた。元のイラストでは、桜の木からの木漏れ陽が複雑な影を作っているが、この描写がシャープすぎてそこに目がいってしまうのだという。「木漏れ陽を描きたい」という意欲は伝わるが、それを全体的に入れてしまうと、絵がガチャガチャして形を認識しにくくなってしまう。添削により複雑な描写を抑え、明るさを落としたことで、友人とガシッと腕を合わせているポーズが際立った。また、頭の位置を低く調整することで、前に突き出した腕と顔の距離感を表現。奥行きとメリハリが出てきた。

 服に落ちていた影も、木洩れ陽のニュアンスは残しつつ、くっきりと目立っていたところを少しボケた形で調整。さいとう氏は、「プロのイラストレーターが最も大事にする要素の一つとして『わかりやすさ』がある」と強調する。

 唸らされたのは、テーマの読み取り方だ。元のイラストでは「桜梅桃李」という言葉から、画面手前に桜の木をぼんやりと見切れさせており、おしゃれな演出になっている。しかし、さいとう氏はこれがイラスト全体を邪魔しており、キャラクターの表情やポーズをわかりにくくしていると指摘。「オンリーワンの花を咲かせよう」という言葉の意味を考えれば、描かれている男子高校生自身が「花」であり、ことさらに桜の木を強調する必要はないと語った。さいとう氏は赤系統の色味で統一されていた背景を青く調整し、テーマカラーの赤/ピンクを際立たせた上で、満開の桜を描いていった。

 そして、キャラクターの顔にも添削が入る。ここでもやはり作者のこだわりが前面に出てしまっており、涙袋を強調するハイライトや、紅潮した頬、またここでも木洩れ陽と、一つ一つの「表面処理」が、キャラクターが持つ造形のよさを覆い隠してしまっているとの指摘で、「元の顔がいいのに厚化粧してしまっている」とわかりやすく表現された。添削後のキャラクターの表情を見ると、確かに造形はほぼ変わっておらず、表面処理を和らげただけで「素材」のよさが強調されている。

 多くの創作において「引き算」の重要性はよく語られるところだが、実際にイラストを添削することでその効果を伝えたさいとう氏。相談者も動画コメント欄で「自分の絵でも意識して描いたらここまでさわやかに描けるという希望が持てました!!」と反応しており、元々の画力の高さと、アドバイスを素直に受け入れる姿勢でさらに成長していきそうだ。自分で絵を描かない人も、納得のビフォー・アフターをぜひチェックしてもらいたい。

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=iv7fFr8AzZI

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