中世日本において神格化した“異形”神仏の謎ーー秘教的世界にフォーカスした名著が改訂新版として2冊刊行

『異神 中世日本の秘教的世界 Ⅰ 新羅明神・摩多羅神編』と『改訂新版 異神 中世日本の秘教的世界 Ⅱ 宇賀弁才天・牛頭天王編』(戎光祥出版)

  現在大河ドラマの『光る君へ』をはじめ中世への注目が集まる中で、興味深い書籍が戎光祥出版より刊行されることが決まった。かねてより復刊を要望する声が多く、たびたびSNSでも話題となっていた、山本ひろこ氏による『異神 中世日本の秘教的世界 Ⅰ 新羅明神・摩多羅神編』と『改訂新版 異神 中世日本の秘教的世界 Ⅱ 宇賀弁才天・牛頭天王編』の2冊である。

  著者の山本ひろこ氏は、和光大学の名誉教授であり、日本の神話や神楽・祭祀を中心とした講座やフィールドワークを実施する「成城寺小屋講座」の専任講師としても知られる。日本の神話や思想、文化史に精通されており、2017年まで教鞭を執っていた研究室は魔窟と化していたようで、面妖・偏屈な人物が出入りし、藁蛇や御幣などがわがもの顔で居座ることがあったという(山本ひろ子氏の“伝説”の研究室のプロフィールより抜粋)。そんな山本氏の膨大な研究の中から「異神」について編まれた名著として知られるのが本書2冊である。

  一体これは神か仏なのか―――。御神格、像容、秘儀、祭礼など、摩訶不思議な世界にうごめく異形の神仏の謎に迫る内容だ。中世をはじめとした歴史好きは無論、怪異やオカルト、ホラー好きにもおすすめの書籍といえるだろう。改訂新版では、活字が大きくなり、かつ多くのふりがなが入り読みやすさが追求されているのも嬉しい。註釈や資料、詳細な索引も収録された決定版となっている。少部数限定出版のため、興味がある方は早めに購入することをおすすめしたい。

■書誌情報

『異神 中世日本の秘教的世界 Ⅰ 新羅明神・摩多羅神編』

【目次】
越境者たち―『改訂新版 異神』へのまえがき
プロローグ――異神たちの「顕夜」へ
第一章 異神と王権――頼豪説話をめぐって
Ⅰ 『平家物語』頼豪説話の構成とモティーフ
 ⅰ 頼豪怨霊譚の位相
 ⅱ 史実と虚構のあいだ
Ⅱ 呪殺された王――後三条天皇崩御譚
 ⅰ 神は「鳴動」した
 ⅱ 王家と山門・寺門
Ⅲ 頼豪説話の成立
Ⅳ 鼠の秀倉譚 
 ⅰ 頼豪鼠と日吉社・鼠の秀倉
 ⅱ 護因と後三条天皇(1)
 ⅲ 護因と後三条天皇(2)
 付論Ⅰ 赤衣の老翁・赤山明神
 付論Ⅱ 新羅明神来臨考――縁起と秘法をめぐって
 ⅰ 智証大師伝と新羅明神の渡来
 ⅱ 新羅明神と尊星王法――「三ヶ条の御本意」をめぐって
 付論Ⅲ 新羅明神の幻像を追って
 ⅰ 「御本国」での四つの本名――嵩山王・朱山王・松菘王・四天夫人
 ⅱ 「素髪の老翁」とスサノオ――疫神としての新羅明神
第二章  摩多羅神の姿態変換――修行・芸能・秘儀
序 謎の神・摩多羅神
Ⅰ 叡山常行堂と摩多羅神
 ⅰ 常行堂と引声念仏
 ⅱ 秘法「天狗怖し」
 ⅲ 摩多羅神のトポロジー――常行堂を超えて
Ⅱ  秘儀と摩多羅神――摩怛利神法と玄旨灌頂の世界
 ⅰ 摩怛利神法――七母天供養法と七鬼の呪言 
 ⅱ 玄旨灌頂と摩多羅神――「ふるまい」の本尊
 Ⅲ 修正会のなかの摩多羅神――秘法相伝と摩多羅神の「顕夜」
はじめに――まぼろしの修正会から
 ⅰ 摩多羅神相伝と「天の祭」――多武峰の場合
 ⅱ 摩多羅神相伝と秘密の奥殿――毛越寺の場合
 ⅲ 摩多羅神の顕夜――日光山の場合
終わりに――「神申し」の翁へ
付論 日光山の延年舞と常行堂
はじめに――日光山常行堂と摩多羅神
 ⅰ 倶舎舞と修正会――「延年舞」の源流を求めて
 ⅱ 教城院と光樹院――摩多羅神の奉斎者たち
終わりに――甦った摩多羅神法

ISBN:978-4-86403-543-9
山本ひろ子/著
四六判/並製/408頁
定価:3,500円+税
https://www.ebisukosyo.co.jp/item/753/

『改訂新版 異神 中世日本の秘教的世界 Ⅱ 宇賀弁才天・牛頭天王編』

【目次】
第一章  宇賀神――異貌の弁才天女
はじめに――『渓嵐拾葉集』と二種の弁才天
Ⅰ 宇賀神経と荒神祭文
 ⅰ弁才天三部経の物語相
 ⅱ荒神祭文と十禅師=宇賀神説
Ⅱ 『弁才天修儀』の儀礼宇宙――行法と口伝をめぐって
 ⅰ弁才天修儀への誘い
 ⅱ『弁才天修儀』の行法と口伝
 ⅲ表白の段
 ⅳ 結願作法
Ⅲ  弁才天灌頂――戒家相承の弁才天と如意宝珠をめぐって
 ⅰ 弁才天五箇の灌頂
 ⅱ 生身弁才天灌頂
終わりに――「如意宝珠王」の彼方へ
付論 戒家と大黒天――大黒天法と戒灌頂をめぐって
 ⅰ 弁才天修儀と大黒天法
 ⅱ 戒灌頂の儀礼世界
 ⅲ 合掌印の授与――「三重合掌」と師資冥合
 ⅳ 「三種法華」と大黒天
資料 凡例 /Ⅰ 弁才天三部経/Ⅱ 最勝護国宇賀耶頓得如意宝珠王修儀/Ⅲ 弁才天修儀私
第二章  行疫神・牛頭天王――祭文と送却儀礼をめぐって
 はじめに――「牛頭天王島渡り」祭文と祇園縁起
Ⅰ 「牛頭天王島渡り」祭文の世界
 ⅰ 牛頭天王の出生と龍宮行き
 ⅱ 蛇毒気神の物語
 ⅲ 津島への鎮座と疫病の造立――本復
 ⅳ 古端一族の殲滅
 ⅴ 釈迦との問答譚
 ⅵ 護符の授与と天王祭
Ⅱ  津島の牛頭天王信仰と御葦流し
 ⅰ ふたつの護符――柳簡と立符
 ⅱ 津島の牛頭天王縁起――「牛頭天王講式」を読む
 ⅲ 流される疫神たち――御葦放流神事
終わりに――「みさきたなびく牛頭天王……」

エピローグ 越境する異神たち
引用資料所収一覧/平凡社版あとがき
解説 われらが摩多羅神は舞う――山本ひろ子讃 桜井好朗
人名・書名索引/事項索引

ISBN:978-4-86403-544-6
山本ひろ子/著
四六判/並製/456頁
定価:3,500円+税
https://www.ebisukosyo.co.jp/item/754/

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