【漫画】作者が単行本を無料で郵送!? 相手の考えをひっくり返す思考ゲーム“マインド・リバーシ”がアツい

「自分の物語を誰かに届けたい」

——まず「1巻お届けチャレンジ」を実施した経緯を教えてください。

猫野:『マインド・リバーシ』は私の実力不足ゆえにあまり読者さんに届きませんでした。ただ、本作には強い思い入れがあります。デビューに至るまでいろいろ辛い経験をして気持ちが沈む日々を過ごしているなか、「自分が本当にやりたかったことをやろう」と決意して編集部に作品を持ち込み、恩人のような編集さんに出会いました。その後、連載に向けて編集さんと本作を作り上げていく過程で、人生を取り戻せたかのような前向きな気持ちになれたのです。

――救われた気持ちにさせてくれた作品なのですね。

猫野:はい。だからこそ、私のせいで読者さんに届かず、埋もれてしまうことに強い責任と申し訳なさを感じました。「どうか誰かに読んでほしい」と思っていた時、ある漫画家さんが自費でアニメPVを制作して宣伝していた記事を思い出しました。大変な労力と費用がかかったはずですが、「それでも自分の物語を誰かに届けたい」という思いに共感して、その覚悟と情熱に影響を受けました。私にはアニメPVを作る技術がなかったため、プレゼントという形式の宣伝方法を選びました。

――配送もそうですが、「直接配布する」というのもかなりタフなことに思えます。

猫野:学生時代にビラ配りのバイト経験があったため、手渡しで宣伝することにも抵抗はありませんでした。とはいえ、最初に近所の公園で子供たちに漫画を配るところから始めました。最初は公園にいる子供たちに恐る恐る「もらってくれませんか」と声をかけたのですが、喜んで受け取ってくれました。子供たちのキラキラした笑顔と丁寧なお礼に、直接漫画を届ける感動を覚えました。

——ちなみに猫野さん自身が単行本を購入して配っているのですか?

猫野:そうです。世の中には有名で面白い漫画が無数にあり、「それでも自分の作品を宣伝するのであれば自分のお金や労力を使うのは当然だ」と考えています。宣伝とはこちらに目を向けていただくための対価を払う行為であり、誰かに無料で広めてもらうことを期待するだけでは効果は薄いと思っています。

――ただ、かなりの金銭的負担になっていませんか?

猫野:「支払った金額は自分への投資であり、行動と努力で多くの目に触れる機会を作る」と強い覚悟を持ってこのキャンペーンを始めました。とはいえ、そこまで莫大な出費をしたわけではありません。私は猫を飼っているのですが、自分とペットの生活が守れる範囲でお金を捻出しています。キャンペーンを知ってくれた人は、安心して本を受け取ってもらえると嬉しいです。

色紙とペンを買って戻ってきた人

——「1巻お届けチャレンジ」を実施するにあたり、編集さん、出版社の人から反対の声はありませんでしたか?

猫野:当然、反対の声はありました。ただ、私にとって単行本の売り上げは重要ではなく、「ただ純粋に多くの人に知って読んでほしい」という強い願いがありました。その熱意を伝えた結果、私のワガママを受け入れてもらいました。本当に心から感謝しています。

——郵送された人からの声がSNSに寄せられていましたね。

猫野:知り合いの少ない私にとって驚きと感動の連続です。影響力のある人が私の漫画と一緒に写真を撮ってくれて、その人のフォロワーさんに興味を持ってもらうこともありました。また、単行本を実際に購入してくれる人もいて、新人の私の作品に対してはもったいないほどの配慮をいただいています。

――特に印象に残っていることはありますか?

猫野:『マインド・リバーシ』のキャラクターを描いた絵を手紙と一緒に送ってくれたり、「普段は漫画は読まないけど、あなたの作品はこれからも読み続けます」というDMをもらったりなど、どれも印象に残っています。こうした反応をもらえると、宣伝活動の不安や迷いが消え、「やって良かった」と心から感じるようになりました。

——手渡しでの記憶に残っているエピソードはありますか?

猫野:最初に手渡しで漫画を配布する時は不安や戸惑いもあったのですが、ある女性が単行本を大喜びで受け取ってくれて、たくさんお話をしてくれました。この出会いがきっかけで、この取り組みを続けようと前向きに思えました。また、わざわざ色紙とペンを買って戻ってきて私にサインを求める男性もいて、「無名の新人漫画家にそんなことまでしてくれるなんて」と感動しました。他にも、本を受け取ってくれた女性と後日再会した際、真夏の暑い中にもかかわらず、漫画配布を手伝ってくれました。

――最後に『マインド・リバーシ』を作者としてどのように楽しんでほしいですか?

猫野:ぜひキャラクターと一緒に物語を追体験してもらえれば嬉しいです。登場人物がどのように問題を解決していくのかを、一緒に考えながら読み進めると物語の世界により深く浸かれます。また、今回「1巻お届けチャレンジ」を通して多くの人達と出会い、優しさに触れてきました。「より良い作品を描き続けることが私にできる恩返しだ」と思っており、支えてくれる人達が自慢できるような漫画家になれるよう精進していきます。

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