速水健朗のこれはニュースではない:松岡正剛の話ーーファンと利用者、どちらを大事にするべきか問題

松岡正剛が編纂した『情報の歴史』

 利用者とはどういうことか。例えば、僕は何かが話題になっているときに最終的に岡田斗司夫の意見を見るためにYouTubeチャンネルにアクセスすることがある。必ずしも中身には納得しないこともあるが、凡百の意見とは違う角度のコメントを発しているのは間違いない。つまり、僕も岡田斗司夫の利用者であるということ。

 その上で松岡正剛と岡田斗司夫を比較してみる。どちらも博覧強記で反転アンチが多い。ファン、信者が多いのは松岡だろう。では、松岡正剛に利用者はいるのか。僕がそうだ。著作のファンと言うよりも、別の側面の松岡正剛の利用者だ。

松岡 正剛 (監修), 編集工学研究所 (著, 編集), イシス編集学校 (著, 編集)「情報の歴史21: 象形文字から仮想現実まで」(編集工学研究所)

 松岡が編纂した『情報の歴史』(編集工学研究所)という年表がある。僕の机の上には、その1995年版と最新版の両方がある。単に年表としても利用しているが、この年表が持っているアイデアの部分、または形式そのものを使わせてもらうことがある。正直に言うと何度も何度もこれをパクっている。例えば、「思想地図β」の「ショッピング特集」の中でショッピングモール年表をつくったことがある。原型は「建築夜学会」の展示会で披露したもの。見る人が見ればと言うか、一目で『情報の歴史』の真似だってわかる。

 『情報の歴史』は、見開きで1年(基本形式)で、世界史、日本の出来事、サイエンス、メディア、といった具合に別々の分野の年表が並行して組まれている。同時期に起きていることを横軸で見るための年表。ちなみに僕のショッピングモール年表も横軸は、都市計画、商業施設の歴史と、ロードサイド建築史と自動車文化といった項目を並べて作っている(うろ覚え)。この『情報の歴史』は、年表好きのバイブルだ。形式としても、アイデアとしても応用可能。利用者、愛用者がたくさんいる。

利用者が増える≠ファンが増える

 ファンを増やしたい。もちろん、このポッドキャストを応援してくれるリスナーを増やしたいし、それは自著を読んでくれる人を増やしたいからでもある。でも、ファンを増やすことと利用者が増えることは混同しない方がいい。岡田斗司夫の理論を踏まえるとそういうことになる。

速水健朗『1973年に生まれて: 団塊ジュニア世代の半世紀』(東京書籍)

 利用者とは何か。最近X(旧Twitter)でエゴサーチをして、「速水健朗が唾吐きそうなタイトルだな」ってつぶやいているのを見つけた。リンク先には、世代論をテーマにした書籍があった。つまり、その主は僕の『1973年に生まれて』という本を読んでいる。僕の本は、団塊ジュニア世代の自虐癖への批判でもある。それを読み込んだ上でのつぶやきということ。でも、その主は僕のXをフォローしていない。ファンではないが本の読者。つまり、これが「利用者」ということだ。

 一方、「昔読んだ速水健朗『1995年』に、Windows95が発売されたとき、未来が開けたような気がした…世の中が変わるような気がした的なことが書いてあったのだけど(以下略)」というつぶやきも見つけた。へー、俺そんなこと書いたかなと自分の本をKindleで買って確認したところ真逆だった。ウィンドウズ95はつくられたブームで、インターネットの普及と関係ないと書いている。これはらしい書き口だ。これはこれで言い過ぎだと自分で思う。なので、このXの内容は、何らかの思い違いなのだが、これはこれで岡田斗司夫の言う「利用者」である。「ご利用ありがとうございます」と心でつぶやき、受け流した。

 最後に僕の『ラーメンと愛国』が松岡正剛の「千夜千冊」(https://1000ya.isis.ne.jp/1541.html)に取り上げられている話。その感謝もあって彼の話をしているわけだが、それ以上に僕は、『情報の歴史』の利用者の1人として松岡に礼を言いたいと思って話している。松岡正剛のすごいところは、彼がファンや信者を生み出しただけでなく、利用者をたくさんつくっていたところにある。そして、僕は、これからも彼のユーザーであり続ける。

■書籍情報

『これはニュースではない』
著者:速水健朗
発売日:2024年8月2日 
※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:本体2,500円(税込価格2,750円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5変/184頁
ISBN 978-4-909852-54-0 C0095

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