猫の癒し効果には科学的な裏付けがあった! 『にゃんこパワー』著者が語る、猫研究の最前線

『にゃんこパワー 科学が教えてくれる猫の癒しの秘密』(新潮社)

 スウェーデンから猫の癒しの秘密を教えてくれる本が届いた。猫好きの想いは万国共通であり、さらにその癒しのパワーは「科学」に裏付けされていると教えてくれる『にゃんこパワー 科学が教えてくれる猫の癒しの秘密』(新潮社)が発売され、好評を博している。著者は大手出版社の雑誌を複数創刊してきた、スウェーデンでは知らない人のいない編集長として活躍後、夫の闘病を支えるためにフリーランスになった作家でジャーナリストのカリーナ・ヌンシュテッドさん。そしてヨガマスターで作家、ジャーナリストのウルリカ・ノールベリさんのふたり。

 作家でジャーナリストという共通点を持つふたりは、ともに夫の闘病を支えた妻の顔も共通していた。さらに「猫好きである」という面も。今回、本書を世界に向けて出版したカリーナさんにインタビュー。実際に猫に癒された経験を持つ著者が、「猫がのどで鳴らすゴロゴロ音は、人の心拍数と血圧を下げ、痛みを緩和し、治癒力も高める」など、猫の魅力に「科学」から迫った理由を聞いた。また本書にも登場する、欧米では猫飼いの女性に使われることがあるという「クレイジーキャットレディ」なる単語についても聞いた。実際に猫を飼っている、現在、アメリカ大統領選に出馬表明中のカマラ・ハリスもそう“揶揄”されることがあるとか。

 さらに本書の翻訳を担当した訳者でスウェーデン在住の久山葉子さんにも、日本とスウェーデンとの違いを直撃。「動物の権利」を掲げるスウェーデンの姿を聞くことができた。

自分の体験の本に「科学」を盛り込んだのは、読者とより繋がれるから

カリーナ・ヌンシュテッド氏

――家族の闘病期間中に、猫が大きな支えになったエピソードだけでも伝わってくるものがありましたが、本書は、エッセイの形に留めるのではなく「猫が与える癒し」について、科学的に迫っています。世界の研究者への取材や、データ、歴史などを取り入れていく。なぜ、こうした構成にしたのでしょうか。

カリーナ・ヌンシュテッド(以下、カリーナ):私はノンフィクションの本と個人的なエピソードを混ぜることが、読者と一番強く繋がれる方法だと思っています。それによって読者に強い感動を与えられるし、同時に科学的なことを学んでもらえます。私とウルリカはともに作家であり、ジャーナリストで健康に興味があり、そして猫が好きです。私には息子がふたりいますが、夫がガンになり、コロナ禍に再発しました。他の国ほどではありませんが、スウェーデンでも世間との関わりが減り、夫は別荘で隔離生活をしていました。そのときに、夫が「猫を飼いたい」と言ったのです。私自身はずっと猫のいる人生でしたが、夫にアレルギーがあったので、彼と結婚してからは我慢していたんです。その彼が飼いたいと。

――今日も一緒にいるサイベリアンの猫ちゃんですね。

カリーナ:本書でも触れていますが、サイベリアンはアレルギーフレンドリーといって、ほとんどの人にアレルギーの出ない種類だったんです。そこから私の家でも猫を飼い始め、すぐに彼のサポートになっていると感じましたし、闘病を手伝っている私たちも助けられました。この本は、彼の闘病中から書いていましたが、ウルリカも2匹の猫を飼っていて、ご主人は長年、重い病で闘病していました。私たちは猫好きで、夫の闘病を支えていることも共通していました。そのとき自分のなかで「キャットパワー」という言葉が浮かびました。そこから、自分が支えられていると感じていたことを調べていくと、健康効果を裏付ける事実がたくさんあったんです。(※本書の原題は『Cat power』)

「クレイジーキャットレディ」って?

――本書は、カリーナさんとウルリカさんが現代の忙しく生きる人々へのメッセージも伝わってきます。これは猫の姿に感化されたものなのでしょうか。

カリーナ:もっと人生のバランスを大事にしようと、猫にインスパイアされました。具体的に言うと、遊んだり、休んだり、食事時間を守ったり。そういった姿ですね。もちろん家にいる猫たちは、お金も稼がなくていいし、家族を養う必要もありません。でも猫の、人生に対するシリアスすぎない姿、そうしたシンプルな姿にサポートしてもらっています。人間はなんでも複雑にしがちです。先日も、家の窓にいたてんとう虫を猫が見つけて、遊んでいました。彼らにとってはそれが幸せな瞬間。私たちも、テンポを落とすことが大事だと思います。バランスを保つ。エクササイズをしたり、ストレッチしたり、しっかり遊んだり。猫たちの姿に、バランスの取れた状態を学びました。

――猫を何匹も飼っている女性を(人間よりも猫が好きと)揶揄した言葉として「クレイジーキャットレディ」という言葉が登場します。日本ではあまりなじみのない単語なので、少し教えてもらえますか?

カリーナ:基本的に女性にしか使われない言葉です。要は女性軽視の入った、オールドファッションな言葉で、ネガティブな意味で使われます。もちろん今の女性たちには、そうした言葉を受け入れたくない機運があります。アメリカの「サタデー・ナイト・ライブ」の司会者(ハイディ・ガードナー)が、猫を3匹飼っていて、「クレイジーキャットレディ」という偏見にすごく怒りました。そして「クレイジーという単語には熱心、情熱という意味もある」と言い返しました。それから、今アメリカの大統領選で話題になっているカマラ・ハリスも猫を飼っているのですが、実子はいないということで、クレイジーだと揶揄されている典型的なパワーウーマンの1人です。この時代において信じられないような侮辱的な視点だと思います。本書でも書いていますが、私は猫を飼う選択をする女性は賢い「クレバーキャットレディ」と考えていますし、そのことをシェアしたいと思っています。

ケアキャットの必要性。猫のぬいぐるみでも効果が

――ケアキャットの存在についてはどうお考えですか? カリーナさんのご家族も実際支えられたわけですが、施設や老人ホームなどにももっと必要だと考えますか?

カリーナ:多くの猫がいろんな施設にいるようになってくれたら嬉しいです。猫はたくさん愛を広めますし、ストレスを下げてくれます。特に老人の方は、辛い人生を過ごした方、すべてを失ってホームに来た方も多いです。認知症になってしまっていたり。かつて私の祖母も認知症でホームにいました。お見舞いにいったとき、そこでは猫のぬいぐるみが人気でした。研究でぬいぐるみでも効果があると分かっていますが、本物の猫にはもっと効果があります。孤独を癒すという意味ではもちろん犬も同じですが、のどを鳴らすのは猫だけです。猫は犬と比べて世話も簡単ですし、施設にも合うと思っています。いろんな社会的な規制が関わって来るので複雑な話だとは思いますが、社会が努力できればと思います。

――いろんな国の猫を調べたと思います。どんな国が特に印象に残っていますか?

カリーナ:ひとつの国を選ぶのは難しいです。日本だと招き猫が有名ですね。それに古代エジプトでは猫がすごく神聖で、猫も人と一緒に埋葬されたり、猫を殺すと死刑になることもありました。大事な家族の一員とみなされていたのです。物質主義の現代ですが、自然や動物と繋がることが大事なのだと思い出すことは必要です。さかのぼって歴史を調べていても、猫は人間にとってとても重要な存在だったことが分かります。

――写真や資料だけでなく、日本の猫の映像も見たことはありますか?

カリーナ:もちろん。SNSで世界中の猫アカウントをフォローしているので、日本の猫たちの姿も見ていますよ。今回、日本でもこの本が出たことはすごく嬉しくて、夢が叶った思いです。この本を読んで癒されたり、研究結果に驚いたり、猫から得られた知識で、バランスの取れた生活や人生を経験してくれたら嬉しいです。いつか日本に行きたいですね。

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