オリンピック、トルコの射撃選手・無課金おじさんが話題 兵器マニアも驚くスキルと国家憲兵の任務とは?

■国家憲兵隊の任務とは?

 憲兵とは、主に平時においては軍隊内部の秩序と規律の維持や防諜を行い、戦時においては交通整理や捕虜の取り扱いといった任務を遂行する戦闘支援兵科である。通常は軍隊内を対象とした任務にあたっているが、その範囲にとどまらない役割を兼ねているのが、国家憲兵だ。

 国家憲兵は通常の憲兵としての任務だけではなく、一般警察活動も行う法執行機関である。日本には存在しない組織なので想像しにくいが、フランスでは自治警察の発達が早かった都市部以外の農村で発生する傭兵部隊による略奪などに対応するため、14世紀ごろから設けられている組織だ。その後ヨーロッパ大陸諸国やその植民地を中心に広く普及し、現在でもヨーロッパのラテン諸国や中南米などでは数多く存在している。これらの国の国家憲兵は、平時には犯罪捜査や治安維持といった任務にあたり、戦時には軍の指揮下に入って憲兵任務を行う。軍隊と警察の両方の要素を併せ持った組織が、国家憲兵なのだ。

  トルコのジャンダルマも、この国家憲兵に当たる。平時には内務省所属の組織として治安維持、重要施設の警備、国境警備といった警察任務にあたっており、警察と同様に市民からの電話での通報も受け付けている。一方で戦時にはトルコ陸軍の指揮下に入ることが決まっており、機関銃や対戦車兵器、迫撃砲といった重火器や装甲車も保有。また、軍隊とは異なり、隊員は志願によって入隊する。

  ディケチュ選手は、このジャンダルマの隊員で、なおかつトルコの首都アンカラを拠点とする国家憲兵総司令部のスポーツクラブ「Jandarmagücü」に所属。この「Jandarmagücü」は射撃以外にもバスケットボールなど様々な競技に選手を送り込んでいる。

  国家憲兵としてキャリアをスタートさせたディケチュ選手は、2001年からスポーツシューティングをはじめ、ナショナルチームだけではなく軍の射撃競技チームにも参加。オリンピック以外にも各種の射撃選手権に出場し、今回メダルを獲得したエアピストルだけではなく通常の銃弾を使うセンターファイアピストル競技でも数多くの記録を残している。一般に射撃は選手生命が長い競技だが、その中でもベテランと言っていいだろう。あの安定した射撃姿勢やラフな服装は、国家憲兵とスポーツ選手という立場で長い経験を積んできたからこそ可能になったものなのだ。

  射撃競技は第一回近代オリンピックであるアテネ大会から実施されており、参加国数は陸上競技に次いで多い。銃所持に関するハードルが極めて高い日本では実感しにくいが、国際的には非常に選手層の厚い競技なのだ。その中を勝ち抜いてメダルを獲得するというのは、並大抵のことではない。ラフだが安定したフォームで銀メダルを獲得したディケチュ選手の姿は、軍事大国トルコでの射撃競技のレベルの高さや、選手層の厚さを象徴するものであるように思う。

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