『葬送のフリーレン』『きみの横顔を見ていた』『メダリスト』第48回講談社漫画賞受賞 贈賞式で喜びの声

 第48回講談社漫画賞の贈呈式が7月31日に東京都内で開かれて、少年部門を『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人/作画:、掲載誌:週刊少年サンデー)、少女部門を『君の横顔を見ていた』(著:いちのへ瑠美、掲載誌:別冊フレンド)、総合部門を『メダリスト』 (著:つるまいかだ、掲載誌:アフタヌーン)が受賞した。贈呈式では『メダリスト』で授賞したつるまいかだが、お祝いにかけつけたTVアニメ『メダリスト』でヒロインの結束いのりを演じる声優の春瀬なつみの言葉に喜び、涙を浮かべる感動的なシーンも見られた。

「つるま先生はデビューする前から私のファンとしてお手紙を下さっていて、最後のお手紙には、会社を辞めてマンガ家になります、春瀬さんに主人公の声を演じてもらうことが夢ですと書かれていました」。第48回講談社漫画賞で少女部門を受賞した『メダリスト』の作者、つるまいかだに向けて声優の春瀬なつみが贈ったお祝いの言葉が作者の涙を誘った。

総合部門受賞のつるまいかだ『メダリスト』

「アフタヌーンで連載が始まると発売日に本屋に走って買って、玄関先で読み始めて泣きました。結束いのりを演じるのが私の夢になりました。その夢がかなって、最高にカッコ良く美しいいのりちゃんを演じられたことを嬉しく思います」。そう続けた春瀬の言葉に感動し、言葉に詰まりながらも受賞の挨拶に立ったつるまは、毎月何時間もかけて講談社に通いネームを書いていたこと、詰まったときに通路を歩いて以前に講談社漫画賞を受賞した『ブルーピリオド』と『スキップとローファー』の看板を見て、同じように愛される漫画を描きたいと決意したことを明かした。

 最終選考に残ったのは今回で2度目。「アニメ化が控えている今、獲れなければ次は獲れないと思いました。私の漫画のセリフに『金メダルは人の上に立つ勇気がないものが偶然手にできるものではない』というものがあります。自分も今年、私の漫画は選ばれるべきだと世界中の誰よりも信じようと思いました」と振り返り、念願がかなって受賞できたことを喜んだ。

少年部門受賞の山田鐘人、アベツカサ『葬送のフリーレン』

 少年部門を『葬送のフリーレン』で受賞した原作の山田鐘人、作画のアベツカサは贈呈式を欠席したが、「他社の作品ながらこうして受賞できたことに驚いています」(山田)、「1話1話、1P1P、1コマ1コマ、山田先生のネームの面白さが読者の方々に伝わるように描いてきたつもりなので、多くの読者のみなさまに支えられて、こうして受賞させていただき、感無量です」(アベツカサ)といったコメントを寄せて、読者と関係者に感謝した。

贈賞を行う講談社の野間省伸社長(右)と『葬送のフリーレン』を掲載している「週刊少年サンデー」の大嶋一範編集長

 贈呈式には、『葬送のフリーレン』を連載している「週刊少年サンデー」の大嶋一範編集長が登壇して賞状などを受け取った。「担当編集から編集部に最初出されたのは勇者と魔王もののギャグでした。それが上がってきたら、エルフの魔法使いが人間の勇者との死別を経て、両種族の生きる時間の時間軸の違いに気づき人間を知る旅に出るものでした」と作品の成り立ちを話した大嶋編集長。「晴れがましい場で歴史ある漫画賞を頂いたことに深く御礼申し上げます」と、仕事ではライバル関係にある講談社からの評価を喜んだ。

 少女部門は『きみの横顔を見ていた』が受賞し、作者のいちのへ瑠美が賞状などを受け取った。登壇したいちのへは、「商業誌で漫画を描く人間として正しいことではないかもしれませんが、この作品には伝えたいメッセージといった強いものはほとんどありません。今の私が読みたいと思っている少女漫画を描きたい、それが面白いのだと信じたいということが作品の原動力になっています。苦しんでいる若い少女漫画家には、こういう話でも評価を頂けるということを知ってもらい、繋げることがきればと思います」と話して、後進を激励した。

少女部門受賞のいちのへ瑠美『きみの横顔を見ていた』

 贈呈式では、選考委員を代表して海野つなみが講評を行い、「1位に推した作品ばかりが受賞して嬉しい」と、受賞作への評価が最初から高かったことを明かした。少女漫画部門で受賞した『きみの横顔を見ていた』については、森下suu『ゆびさきと恋々』と競い合う形になり、推す人数では『ゆびさきと恋々』の方が多かったが、女性選考委員の2人が揃って『きみの横顔を見ていた』を推していたことから、久米田康治が意見を尊重して最終的に受賞が決まったことを明かした。

 『メダリスト』については、絵の上手さや緩急をつけた構成など「漫画と魅力がずば抜けています。『THE FIRST SLAM DUNK』を劇場で観た時のような決めシーンの気持ちよさを、漫画を読んでいて感じました」と激賞。『葬送のフリーレン』については、すでに様々な賞を獲っているが、改めて講談社漫画賞を受賞することは作品にとっても作者にとっても大きいと指摘し、「読者として最後まで旅を見守っていきたい」とエールを贈った。

 贈賞式には講談社の野間省伸社長も出席。冒頭に登壇して、「1977年から数えて170もの作品が受賞作に名を連ねていますが、選考に当たって可能な限り議論をすることは変わっていません。今回結論を出すために費やされた時間は3時間。候補作のひとつひとつに対する愛が伝わってきました」と選考に当たった委員たちに感謝を述べた。受賞作についてもお祝いの言葉を述べ、「アニメ化や実写化に力を入れ、ゲーム化にも力を入れていきたいが、こうした多角的な戦略の中核になるのは原作となる漫画の力です」と話して、国境や言語を軽々と飛び越えてみせる漫画というコンテンツのさらなる発展に力を入れていくことをアピールした。

挨拶に立つ講談社の野間省伸社長

 贈呈式には司会役として、お笑いトリオのパンサーの3人が登壇して場を盛り上げた。向井慧が標準的な挨拶をすると、菅良太郎が一言一句同じことを言おうとしていたと笑いを取りつつ、漫画好きでTV番組でも漫画の紹介をしている経歴を活かして、それぞれの漫画が持つ魅力をアピールしていた。その後に尾形貴弘が、元気いっぱいに激励をし、素晴らしい漫画を送り出してくれた作者や選んだ選考委員に向かって、決めセリフの「サンキュー」を言う展開で笑いを誘っていた。

贈呈式を盛り上げたパンサーの3人

関連記事