「日本、本当に大丈夫?」気鋭の経済学者・安田洋祐に聞く、 日本のリアルと未来への提言

■異業種同士の気鋭学者、企画が生まれた背景は?

『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(西田亮介・安田洋祐/著、日本実業出版社/刊)

  現代を代表する気鋭の社会学者である西田亮介氏と、経済学者の安田洋祐氏。社会学と経済学は、近いようでいて遠い学問なのだが、両氏の付き合いは長く、学会や研究会で幾度となく議論を繰り返してきた論客である。

  そんな2人がそれぞれの立場から、日本の未来について、経済、政治、教育など多彩な観点から論じ合った一冊が刊行された。『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(西田亮介・安田洋祐/著、日本実業出版社/刊)である。本書には、日本において現在進行形で起こっている問題を2人の専門的立場から論じた言葉が明確に著されている。

  今回は著者の1人である、安田氏にインタビュー。本を出すことに至った経緯から、日本の諸問題を読み解くうえで注目すべきトピックまで、縦横無尽に語っていただいた。

■経済学と社会学の違いって?

経済学者として現在注目を集めている安田洋祐氏に日本は本当に大丈夫なのか、経済学視点から話を聞いた

――経済学の研究者である安田さんと、社会学の西田さんがそれぞれの立場から現代日本の問題について語った一冊です。企画を提案されたのは、西田さんだったそうですね。

安田:西田さんとは10年来の付き合いで、分野は違えども何度も社会問題をテーマに議論した経験があります。一緒に本を作るという提案を聞き、きっと楽しいだろうなと感じて引き受けました。僕自身、経済学の見方や有用性を発信したいと思っていたのでちょうどいい機会でしたし、西田さんとは学問的なアプローチの仕方も違うので、経済学の特徴を見せるには絶好の場だと考えました。それに、売れっ子の西田さんの力を借りれば、僕だけではリーチできない層にもメッセージが伝わるのでは、という下心も(笑)。

――安田さんが研究する経済学とはそもそもどのような学問なのでしょうか。

安田:経済学は身の回りの経済にまつわる現象を分析する学問です。問題に対するアプローチの仕方が確立していて、体系的に世の中の現象を観察しようとする傾向が強いですね。対する社会学は、現象を見つけたあとに分類してパターンを見出すとき、具体的なアプローチ・手法に関するセオリーがないと感じます。共通点は、研究者がそれぞれの専門領域を通して、社会の問題点や気になった点を見つめていることでしょうか。

――話を聞いていると、経済学は一定の学問上の縛りがあるということでしょうか。

安田:経済学は流派と言うか、アプローチの仕方が厳格な学問なんです。流派によって、どのやり方で分析するのかまで決まっています。少し強引ですが、スマホを例にすれば、全員iPhoneを使うというルールがあるようなイメージでしょうか。多少バージョンは違えど同じiPhoneなので、使い方や理解が人によって大きく変わるわけではないということです。

  iPhoneユーザーであれば、端末やOSのバージョンが違っても同じiPhoneなので、使い方や理解が人によって大きく変わるわけではありませんよね。また、Androidもガラケーとは違い同じスマホなので、ある程度はその使い方が想像できるわけです。大学院の修士ぐらいまで出れば各流派の方法論が叩き込まれるので、高い分析能力を身につけることができます。言ってしまえば、それだけ体系化されているのです。社会学はそれぞれの研究者の自由度が高いぶん、研究者間の意思疎通が難しい面もあるようです。

■経済学はポジティブ? 社会学はネガティブ?

――この本で知ったのですが、個々の事象を扱う社会学はネガティブ寄りなのに対し、経済学はポジティブな学問なのだそうですね。その理由は、経済学はマイナスな事象であってもそれ単体では見ずに、比較しつつ分析するためだと。

安田:一般的に、プラスとマイナスの事象を比較すると、マイナスのインパクトのほうが大きく感じられることが知られています。行動経済学で損失回避と言われる傾向ですね。ギャンブルでも、大勝ちしたときよりも、損したときのショックが大きいでしょう。いくら働いても賃金が上がらない、女性活躍がなかなか進まない、円安によるコスト高が止まらない、といったマイナスの事象だけを切り取って見ると、それだけでマイナス100点とか1000点とかになってしまいそうですよね。

  ところが、悪い面だけでなく良い面もあるという両論併記型で物事を見ると、どうでしょうか。失業率が安定して非常に低い、訪日インバウンド消費が増え続けている、夏のボーナスが過去最高、といったプラスの側面と相殺してみると、マイナスばかりだった印象がだいぶ変わりませんか? 日本が抱える社会問題はそんな要素が多いと思います。

――経済学的な視点から日本の良い面を分析すると、具体的に何が挙げられますか。

安田:まず、株価が最近上がっていますよね。先日は日経平均株価が4万2000円を突破しました。実は、日本の株式市場は年初からの株価上昇率で見ると、欧米や中国などを抑えて世界でもトップクラスです。

――でも、日経平均が上がっても、賃金が上がらないなどの不満も聞こえてきますよね。

安田:賃金が上がらない問題は確かにありますが、一方で、日本は若年者の失業率が極めて低い水準です。そして、若い人に可能性が開かれているのも大きなメリットでしょう。世界では、大学を出たばかりの若者が大手の一流企業に就職するのは非常に難しいです。日本ではそれが十分に可能ですし、ベンチャー企業に入れば、大企業では難しい責任感のある仕事ができる可能性も開かれています。

――ベンチャー企業といえば、海外のほうが若者に大きな仕事を任せているイメージがありますが、違うのでしょうか。

安田:実はそうでもありません。例えば、アメリカのベンチャー企業は経験を積んだミドルシニア層や、大学院で博士号を取得したガチの専門家を囲い込んでいます。平均年齢は若いかもしれませんが、経験も専門もない学部卒の若者には道が開かれていないんです。日本の新卒就職市場は海外とは違って売り手市場なので、若者が良い企業に勤めて現場ですぐに経験を積めるのです。

  このように、見方によっては日本経済にも、他の国にはないメリットはあるんですよ。トータルで見た時に、意外といい状況じゃないか、いい面もあるじゃないか、と思える人もいるはずです。

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