アニメ映画『モノノ怪』『きみの色』をさらに楽しむために ノベライズで深まるキャラクターたちへの理解

『小説 きみの色』(宝島社文庫)

 『映画 聲の形』や『リズと青い鳥』『平家物語』の山田尚子監督が、オリジナル作品として世に問う長編アニメ『きみの色』を作家の佐野晶がノベライズした『小説 きみの色』(宝島社文庫)も、映画の中ではあまり説明されていないことを、言葉によってディテールアップしてあって、観終わった人の作品への理解を深めそうだ。

 8月30日公開予定で、完成披露を始め各地で試写が行われているものの観た人が少ない状態で、どのようなディテールアップが行われているかを説明しては未見の人の興を削ぐ。だから詳細には触れないが、ひとつ言えるのは、メインキャラクターとして登場する2人の少女と1人の少年が、どのような心情で映画に描かれる選択をしたかが分かるということだ。

 予告編からは、キリスト教系の女子校に通う日暮トツ子が、同じ高校に通っていた作永きみや、全く別の高校に通っている男子の影平ルイとバンドを組んで音楽に挑む、といった大まかなストーリーが読み取れる。バンドを通して成長していくストーリーとして、『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ガールズバンドクライ』に似た感慨を得られる作品になっていそうだ。

 だったら、この3人はどこで知り合い、どうしてバンドを組むようなったのか? 映画では展開と演出によって、成り行きの中でそうなっていたように描かれているが、ノベライズはそれぞれの心情に踏み込んで、育ってきた環境や置かれている状況、決断までの心の動きを捉えて描写し、これならバンドを組むことになっても不思議はないと納得させる。

 映画の中できみが選んだある事柄についても、ノベライズではきみの心情がうかがい知れるようになっていて、なるほどと思わせる。優等生でいるのは大変だということなのかもしれない。そうした細かなディテールを、映画を見終わった後でノベライズによって固めることで、悩み多き思春期を活写した作品だということを、より深く理解できるようになるはずだ。

 他には、予告編でも歌われる「水金地火木土天アーメン」という不思議な歌詞が生まれた理由も分かる。準惑星に格下げされた冥王星はともかく、海王星までもが外されたのはなぜなのか? ノベライズを読んで意外すぎる真相に近づこう。

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