夏休みの読書感想文にオススメ! 本好き物語好きが愛おしく思わずにいられない『物語を継ぐ者は』

 この書評を執筆しているのは、2024年7月23日である。多くの小・中・高校は、夏休みに入ったところだろう。計画的な人を除いて、まだ夏休みの宿題や課題に手をつけていないはずだ。しかし読書感想文の本は、早めに決めておいた方がいい。8月後半になって、なにを読んだらいいか迷い、焦ることになったりするからだ。

 でも、どの本にするべきか。よく知られた名作でもいいだろう。書店に行ったり、ネットで検索して、「夏休みの課題図書」に選ばれた本にする手もある。しかし、そのような探し方では見つからない本にも、読書感想文に相応しい本がある。たとえば、実石沙枝子の『物語を継ぐ者は』だ。第十六回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞したデビュー作『きみが忘れた世界の終わり』に続く、第二長篇である。本好き物語好きな人なら、愛おしく思わずにいられない作品だ。ああ、もちろん大人が読んでも楽しめる内容になっている。

 主人公は、十四歳の木村結芽。小学四年生のときにいじめの対象になったが、学校の図書館で出会ったイズミ・リラの児童ファンタジー『鍵開け師ユメと旅のはじまり』と出会い、心の拠り所となる。それから小説に熱中するようになったが、いまでも一番好きなのは、シリーズ第四弾まで出ている『鍵開け師ユメ』シリーズだ。

 そんな結芽が、母親に連れられて事故死した伯母の部屋の遺品整理をすることになる。いままで木村家で話題に上がることもなく、存在すら知らなかった伯母だ。ところが伯母は、結芽を物語で救ってくれた、イズミ・リラその人だった。しかも伯母のパソコンの中には、まだ出版されていない『鍵開け師ユメ』シリーズの第五弾の原稿が入っていた。結芽と同じく文芸部に所属する同級生の琴羽も、やはり『鍵開け師ユメ』シリーズのファン。二人で大いに盛り上がる。

 だが一方で、困ったこともある。言葉の端々から母親が伯母を嫌っていることに気づき、伯母が作家であったことを打ち明けられないのだ。原稿をどうするか悩んだが、中学生であることを隠して、担当編集者の倉森佳樹に連絡する。まあ、すぐに倉森にバレてしまうのだが、結芽の話を真剣に聞いてくれるのだった。

 ところで『鍵開け師ユメ』シリーズは、第六弾で完結の予定だった。伯母の死で幻になった完結篇を、琴羽の励ましと協力を得て、ユメは書こうとする。倉森も応援してくれる。実は、なぜか『鍵開け師ユメ』シリーズの世界に入り込み、ユメになって書かれなかった物語の続きを何度も体験する結芽。その体験を手掛かりに、完結篇を書き進めていくのだった。

 本書は、三つのレイヤーで構築されている。一つ目は、結芽の生きる現実世界。二つ目は、イズミ・リラの書いた『鍵開け師ユメ』シリーズの物語。三つ目は、結芽がユメとして体験する、書かれることのなかった物語世界だ。少年少女が物語世界に入り込む物語は、今となってはさほど珍しくはない。それでも、やはりワクワクさせられる。物語世界の体験が結芽を成長させるだけでなく、それが彼女の書く完結篇にフィードバックされるという趣向が楽しい。また、ストーリーが進むにつれ、結芽の入り込む物語世界が変容していく。詳しく書くのは控えるが、この変容の描写が優れていた。