ドラマ化で話題『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』はどのように生まれた? GLコミック新時代の旗手・Sal Jiangインタビュー

物語に社会を織り交ぜる……『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』の裏側

『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(2)』

――『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』は、序盤はとってもかわいいじれキュン・ラブコメな印象ですが、物語が進んでいくうちにこの世界は決して彩香ちゃんと弘子先輩2人だけの世界ではない……レズビアンを取り巻くとてもリアルな社会模様が描かれていくところが印象的でした。

Sal:それこそ本当に一枚絵と言いますか、シュチュエーションから生まれた作品なので、最初は「かわいい百合」だけを描こうと思っていました。だから、リアルな社会模様とかあまり深いところまでは言及しないでおこうと。ですが、連載を続けて物語を膨らませていくうちに、しっかりとレズビアンを取り巻く現代社会の問題を提示していった方が、彼女たちの解像度が上がるんじゃないかと思ったんです。それから、物語に社会をちゃんと織り交ぜていこうと広げていきました。

――そのために取材などもされたのでしょうか?

Sal:取材はしていませんがこれまで自分が実際に見たことや聞いたことが自然と作品に適用されているように思います。大学生のころ、レズビアンバーに連れて行ってもらったことがあるのですが、ノンケのお客さんたちは「百合やBLという文脈でそういう関係って良いよね!」とかレズビアンに対してポジティブな反応を示すけど、当事者からすると「そういうことじゃないんだよ」とモヤつくとか……。

『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(3)』より

――彩香も周囲の反応に首を傾げるシーンがありましたね。連載当時を振り返ってみて、描く上で一番苦労したことはありますか? 

Sal:基本ないですね。私は描きたいもの、やりたいことが明確にあるので、もう本当に自由にやらせてもらいました。あとは、先ほど連載の途中から作品に社会を織り交ぜていったと話しましたが、そのために担当さんに会社員的視点をお借りしました。それによって、自分では見えないところをたくさん発見して、作品に取り入れることができたんです。それがすごく楽しかった。だから、連載中はやりたいことをやっているなかで、プラスアルファで楽しいことが増えたような感覚でしたね。

――担当さんの会社員的視点があったからこそ生まれたエピソードがあるということでしょうか?

Sal:それこそ弘子の過去編を描く時、10年くらい前の会社の様子を描かなければならないのに、私はその当時を体験していないし、会社で働いた経験はあるものの、わりと早い段階で離れてしまったからどうしよう! と悩んだんです。当時の様子をわからない状態で描いてしまうと、どうしても弘子のセクシャリティ的な葛藤にだけ焦点が当たってしまうなと。私は弘子だけじゃなく、周囲の目的意識にもしっかりと焦点を当てたかったんです。

 例えば、弘子が憧れていたちなつ先輩に嫉妬する営業マン。彼はただ性格が悪いのではなくて、何か目的があって会社に来て働いていて、そのなかでちなつ先輩に「なんだよ、俺だって頑張っているのに!」と嫉妬してしまう何かがあったわけで。このあたりは、自分が体験していないと描けないので、堀江さんに「どういうところにイラっときますかね?」と色々話を伺いました。

 その結果、「会社なんだから真っ当に仕事しにきなよ! って思うかも」みたいな意見をいただいて、なるほどなと(笑)。こういう視点ってスルーしがちというか、主観的になりがちなんだなと気付かされました。主観的になりすぎてしまうと偏った表現に傾いてしまう。本当は周りと自分、それぞれの正義があるはずなのに、それに気付けず主観だけを描いてしまうと、周りはその他の悪に見えてしまうみたいな……。正義と悪を分けて描いてしまうのは、私にとって本意ではなかったので、周囲の意見を聞けたのは良かったですし、本当に勉強になりました。

堀江:弘子の葛藤を描く上で、旧来の男性中心の社会や会社で起こっていそうな出来事などはいくつかお話しさせていただきました。飲み会のシーンで描かれたような、情報としては知っているが、「LGBTQ」に無理解な感じのおじさんたちのような……。

『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(3)』より

Sal:そういった旧来の会社のおじさんたちが弘子や彩香をどう思うのか? というのは結構積極的に入れていきました。ドラマの対立的にも良いし、弘子が自分のセクシュアリティを隠した理由にも繋がるので。ただ、そのおじさんたちを差別的に描きすぎないように。“悪意のない外側の人たち”をどう表現するのかはかなり慎重に考えましたね。一方で、彩香は外側全部を気にしない存在であり、少々コミュニケーション下手ながらもシンプルに弘子先輩が好きで行動する、というキャラを立たせることができました。

自信を持って世の中に出せるドラマ

『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(3)』

――Sal先生の過去や創作の裏側についてお伺いしてきましたが、ここからはドラマ『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』についてお聞きします。7月4日よりドラマの放送がスタートしますが、ドラマ化が決まった時はどんな気持ちでしたか?(取材は2024年6月末に実施)

Sal:正直、驚きでいっぱいでした。そんな何百、何万部と売れている作品じゃないよって(笑)。あと、私は大阪育ちなので、まさか馴染みのあるあのMBSさん!? と、もうそれだけで嬉しかったです。

――実写ドラマ化されることで期待していることや、観るのが楽しみなシーンはありますか?

Sal:作者として脚本の段階から携わらせていただいたのですが、もう観たいシーンがありすぎて! 基本的には原作に忠実ですが、彩香ちゃんが弘子にアピールするところは、よりかわいく見せるために細かいところまで演出を考えてくださったり。キュンとするシーンはもっとキュンとするシーンになっていたり。そういったプラスアルファがたくさんあるんです。

 そして、何より彩香を演じる加藤史帆さん、弘子を演じる森カンナさんが、もう作品からそのまま出てきた感覚で私はいます! 彼女たちがこの地球に降り立ってしまった……! 実在してしまった……! みたいな(笑)。そんな彼女たちが、実際に動いて、そして物語になっているところを観るのが本当に楽しみです。

 あと、ちょいちょいサブキャラで芸人さんが登場します。大阪育ちの私が幼い頃からたくさん笑わせてもらった方や、実は昔芸人を目指していた時代がありまして。その時に憧れていた芸人さんも登場するので、個人的にはもう言葉がでないくらい感激です。ぜひ注目して見てみてほしいです。

――撮影現場へ見学に行かれたと伺っていますが、特に印象的だったエピソードがありましたら教えてください。

Sal:『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』は3巻完結で情報量が少ないので、俳優さん方は役作りしづらいんじゃないかと心配していたのですが、現場で森カンナさんが「弘子だったらこうしません?」と、しっかりと解釈を深めてくださっているのをお見かけして……。なんかもう作者を超えるくらいキャラについて考えてくれた、そのありがたさ、喜びに大変感動しました。

 それと、現場で初めて森カンナさんとお会いした際「私たちのお母さん!」って言ってくださったんです。私たち(弘子や彩香)を生み出した人だからと。それ以来、現場へ見学にいくと俳優さん方やスタッフさんから「お母さん」って呼ばれるんです(笑)。本当に光栄ですし、色んなものをくすぐられると言いますか、嬉しかったですね。

――和気あいあいとした現場だったんですね。Sal先生のお話を聞いて、一層放送が待ち遠しくなりました。最後にこれからドラマを見られる方に向けてメッセージをお願いします。

Sal:ドラマ『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』は、脚本、演出、そしてキャスティング、私自身全て納得していますし、自信を持って世の中に出せるものになっています。ですので、原作ファンの方も安心して見ていただけたらと思います。ラブコメというテーマですので、肩肘張らずに、笑いながら、楽しい気持ちで見てほしいです。

■作品情報
『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(1)』
著者:Sal Jiang
価格:748円
発売日:2021年9月16日
出版社:双葉社

『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(2)』
著者:Sal Jiang
価格:770円
発売日:2022年7月21日
出版社:双葉社

『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる(3)』
著者:Sal Jiang
価格:770円
発売日:2023年3月16日
出版社:双葉社

■ドラマ情報
ドラマ特区『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』
MBSにて毎週木曜24:59〜放送中
主演:加藤史帆、森カンナ
原作:Sal Jiang『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』(双葉社ACTION COMICS)
監督:のむらなお
脚本:下亜友美
企画・プロデュース:上浦侑奈(MBS)、大杉真美(KADOKAWA)
制作:ホリプロ
製作:「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる」製作委員会・MBS
©「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる」製作委員会・MBS 
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