ドラマ『ブラック・ジャック』ドクター・キリコはなぜ女性になったか? キャラクター性と“実写化”の意義を考察

ドクター・キリコが女性に「改変」された理由とは?

 具体的にいえば、今回の実写ドラマでは、中盤以降、「獅子面病」(「骨がどんどんふくれあがって、背骨や顔がすっかり形をかえてしまう」原因不明の奇病)にかかってしまった妻とその夫の苦悩が描かれているのだが、妻は秘かにドクター・キリコに安楽死を依頼し、一方の夫は、ブラック・ジャックに手術の相談をする(が、あまりの高額な手術代に腰が引け、いったんは断る)。

 結果的に、ドクター・キリコはこの妻の腕に安楽死用の薬のキットを装着することになるのだが、そこにいたるまでの流れが、人によっては「自殺幇助」に見えたのかもしれない。

 しかし、実際のところは、ドクター・キリコは妻に、一度は安楽死を考え直すよう進言してもいるのだ。そのうえで、これ以上、夫に無理はさせたくない、そして、「獅子」のような顔になってしまった自分にとっては、「日が昇ることは苦痛でしかない」という妻の想いを理解し、安楽死用の薬を取り出すのである。

 このあたりの展開に、今回のドラマにおけるドクター・キリコの「女性化」の理由が隠されているように私は思う。なぜならば、こうした妻の想いは、男性の医師ではおそらくは完全には理解できないと思われるからだ(多くのファンが指摘しているように、原作のドクター・キリコならそもそもこの仕事は受けないだろうが……)。

“女性版”ドクター・キリコへの期待

 繰り返しになるが、私は今回の“女性版”ドクター・キリコについて、悪い印象は抱かなかった。放送前に本作のプロデューサーが述べたという「優しい女神」云々の話にはあまり共感できなかったが、石橋静河は素晴らしい演技を見せてくれたように思う。

 強いていえば、ドラマのラスト――ドクター・キリコも1人の医師として、事故現場に向かうブラック・ジャックの後を追うべきだと思ったが、そのあたりの演出はまあ、観る者の好みしだい、といったところだろうか。

 いずれにせよ、こういう形で話題になってしまった以上、仮に「続編」が作られたとしても、“彼女”を再び登場させるにはそれなりの覚悟がいることだろうが、もともと手塚プロ側は今回の「女性化」を「許容」していたようでもあるし、個人的にも、批判的な意見はあまり気にせずに(もちろん参考にできる意見は取り入れた方がいいと思うが)、脚本家と監督と俳優が“これだ”と考える新しいキャラクター像を作っていけばいいと思っている。そう、本来、原作に忠実であることだけが、実写化の意義ではないはずなのである。

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