新時代のタイムループ!? 共感不可能な主人公と少女たちの戦いを描いた『Thisコミュニケーション』の魅力

“誰も共感できない主人公”の魅力とは……

 例外もあるが、基本的にループものの作品では、「誰かを助けること」を目的としてやり直しが行われることが多い。『STEINS;GATE』や『魔法少女まどか☆マギカ』、『僕だけがいない街』、『サマータイムレンダ』、『Re:ゼロから始める異世界生活』など、例を挙げると枚挙に暇がないほどだ。現在『月刊コロコロコミック』で連載されている『運命の巻戻士』に至っては、時間を巻き戻すことで不慮の事故や事件で亡くなった人を次々救っていくというストーリーで、“人助け系ループもの”の極致と言える。

  精神的もしくは肉体的な苦痛に耐えながら、誰かを救うためにループを繰り返す……。そんなヒーローのような姿こそが、ループものの王道的な主人公像だと言えるのではないだろうか。

  しかし『Thisコミュニケーション』の主人公にあたるデルウハは、決してヒーローではない。世界を救うことはもちろん、少女たちを絶望的な境遇から助け出すことにも一切興味がなく、その胸にあるのは自分の食欲のみ。ただ1日でもパンとサラミを食べられる日を多くするために、不死身の部隊を指揮して戦いを繰り広げていく。

  時にデルウハはハントレスの少女たちにとっての敵となり、両者が殺し合いに発展することもある。そう考えると、もはやヒーローどころかダークヒーローですらなく、一切の憧れや共感を拒むような立ち位置だと言えるだろう。それでいて彼の人生がどこに向かうのか、怖いもの見たさで眺めていたくなってしまうのが、デルウハという主人公の魅力ではないだろうか。

  ところで徹底した合理主義者の主人公でありがちなのは、徐々に他の登場人物たちにほだされていき、最終的に人間らしい生き方を理解するというオチだ。しかし同作の作者・六内円栄はそんな甘い展開には一切舵を切らない。最初から最後まで怒涛のストーリーが繰り広げられるため、ほとんどの読者は予想を裏切られるはず。

  同作の連載は『ジャンプSQ.』4月号をもって終了を迎え、5月2日には最終巻となる12巻が発売された。その連載期間は約4年だったが、単行本で読み通すとあまりに無駄がない構成となっていることに驚くだろう。これまでにない設定で練り上げられたループものの怪作を、一度は読んでみてほしい。

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