キノコ、生産量全国1位の長野で相次ぐ専門企業の倒産ーー背景は電気代高騰と食生活の変化?

■キノコ生産企業倒産の要因

エノキタケはみそ汁や鍋以外のレシピはもっと普及するのか。photo:nathalie jolie(unsplash)

 6月17日付の信濃毎日新聞が、長野県のキノコ生産企業が今年に入って4社が倒産、経営に行き詰っていると報じている。長野県は業界最大手の「ホクト」が工場を構え、キノコの生産では全国1位を誇る。いったい何が、キノコ生産企業を苦しめているのだろうか。

  もともとキノコの生産は、他の野菜や果物のように、自然災害に苦しめられるリスクが少ないというメリットがあった。エノキタケやブナシメジなどは基本的に工場の中で生産するので、台風が来て果実が落ちるリンゴのように、外的なダメージを受けないのが強みだ。

  ブナシメジの場合、発育から収穫、パック詰めまで、人の手が一切触れずに生産できるシステムを確立したキノコ生産企業もある。こうしたシステムが完成されたおかげで大量生産が実現し、1年を通したキノコの安定供給を可能にした。そこに、電気代などの高騰が直撃してしまったというわけである。

  先ほど近所のスーパーに行くと、ブナシメジが1パック98円で売られていた。キノコは残念ながら、こうした薄利多売の商品の定番になっている。そのため、生産しても生産しても儲けが少ない負のスパイラルに陥っていたという指摘もある。しかし、生産コストの高騰で、キノコの安売りの光景も今後、見られなくなってしまうのかもしれない。

■エノキタケのレシピといえば?

  さて、もう一つの要因はキノコのブームが落ち着いてしまったためではないか、と考えられる。キノコは一時期、ヘルシーな食材として注目され、ダイエットにも最適と言われていた。そのためテレビや雑誌でも特集が盛んに組まれたが、最近それを見かけなくなった。

 食文化の変化も影響していそうだ。信濃毎日新聞が引用した、帝国データバンク長野支店のデータによれば、倒産した4社のうち3社はエノキタケなどを生産していた中野市内の企業であるという。この記事の読者のみなさんは、エノキタケを食べているだろうか。おそらく、あまり食べなくなったという人も多いはずである。

  最近のキノコ料理の主役と言えば、安定のブナシメジ、マイタケ、シイタケが鉄板だ。そして、2000年以降に急速にシェアを拡大してきたのがエリンギである。エリンギは日本には基本的に自生しないキノコなのだが、ホクトが流行に火をつけ、今ではごく普通に食べられる定番となった。

  ところが、エノキタケはというと、みそ汁や鍋に入れるくらいしか用途が思い浮かばないのである。つまり、キノコ同士でも競争が起こっているというわけだ。ホクトや雪国まいたけなどの大手企業は、キノコのレシピを盛んに開発して宣伝した。エリンギの普及も、そうした企業努力の賜物だったと考えられる。

  昔からある定番キノコは、現代の食文化に合ったレシピの開発などが十分になされてきたとは、いえないのではないか。エノキタケの苦境の背景には、そういった現代的な事情もありそうだ。

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