『春場ねぎ短編集』『どくだみの花咲くころ』『呪文よ世界を覆せ』 ちゃんめい厳選!5月のおすすめ新刊漫画

 今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき3作品とは?

『春場ねぎ短編集 未等分』春場ねぎ

 『戦隊大失格』『五等分の花嫁』などで知られる春場ねぎ先生、初の短編集。『五等分の花嫁』連載化のきっかけとなった伝説の読み切り版をはじめ、それ以前に発表された珠玉の名作たちが収録されている。

 「人間関係が可視化できるアプリを手にしてしまったら?」「男なのに魔法少女に変身する能力を持っていたら?」。春場ねぎ先生の「もしも〇〇だとしたら?」のバリエーションの豊かさに驚かされると共に、きっとこれらの積み重ねが「もしも家庭教師の教え子が同級生の五つ子だったら?」という『五等分の花嫁』に辿り着いたのではないかと。これまでの試行錯誤の軌跡を辿るような内容となっている。

 特に一番ときめいたのは『裏世界コミュニケーション』。「もしも、普通の高校生が世界を救うという展開に飽きてしまったら?」から始まる作品で、主人公は普通の学校生活を送る傍ら、異世界で勇者として活躍したり、その後も妖怪、殺し屋、未来人などと協力して世界の平和をかけて戦う.......そんなよくあるバトル系マンガのフラグを全部経験済み。にも関わらず、また新たなフラグが立ってしまう。

 あぁ、わかる! その設定よくあるよね! とマンガ好きなら一度は感じたことのある“あるある”を皮肉りつつ、ポップさとキュートさ、そして新たにひと匙の毒を加え、予想不可能なラストへと着地する本作。読み切りと言いつつ、連載化を期待してやまない最後のシーンは必見だ。

 また、『裏世界コミュニケーション』のこれまでのバトル系マンガの始まりをどこか冷めた目でみたような、斜に構えた雰囲気は、現在連載中の『戦隊大失格』の「“正義が勝つ”なんて誰がきめた!?」と通ずるものがあるような........。こうして好きな作家さんの創作ルーツに思いを巡らすことができるのは、短編集だからこその体験。そんな短編集の魅力を再認識するような一冊だ。

『どくだみの花咲くころ』城戸志保

 「あの2人って何で一緒にいるんだろう?」と、別にすごく気になるわけではないけれど、ふと目に入るたびに疑問を感じてしまうコンビ。不思議と小・中・高と、必ずどの時代にもいた気がする。でも、『どくだみの花咲くころ』を読んでその疑問が解消したというか、これまでの人生で出会った不思議なコンビたちについ想いを馳せてしまった。

 主人公はなんでもソツなくこなす優等生の清水。最近、クラスで浮いた存在の信楽くんが気になって仕方がない。信楽くんの行動を観察していくうちに彼の図工作品に心を奪われた清水は、さらに信楽くんから目が離せなくなる。やがて、清水は信楽くんの作品のためなら何でもやりたい! と崇拝じみた熱量で弟子入りを志願するように。

 いうなれば「平凡な学校生活の隣にある、2人だけの非日常でシュールな世界」という感じで、外野である私たちからすると2人の会話は噛み合っているようで噛み合っていないし、まさに冒頭で話した「あの2人って何で一緒にいるんだろう?」現象。さらにいえば、2人の友情が共感や憧れでも尊敬でもなく、清水の信楽くんへの一方的な崇拝という危うい感情から始まる点に、うっすらとした恐怖と不穏さを感じる。

 でも、物語が進むにつれて、段々と輪郭を帯びていく2人だけの「わかっている」感。はっきりと言葉にするでも行動で示すわけでもなく、まるで暗号みたいに表現されているけれど。それらをゆっくりと辿れば、外野は決して踏み入ることのできない、2人だけの聖域が存在するのかもしれないと、“不思議なコンビ”の新たな一面に気付かされる。

 一見すると不思議だけれど、実は確かな聖域のもとに育まれている2人の友情。瞬きしたら見落としてしまいそうなくらい儚い、2人だけの世界をそっと見守りたい。

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