おおひなたごう「はやく『レコード大好き小学生カケル』を描き上げたい」漫画家人生を振り返る展覧会開催
■大好きなレコードを漫画の題材に
――デビューから33年を迎え、おおひなた先生は現在を「成熟期」と表現しています。そんななかで『レコード大好き小学生カケル』を発表されていますね。
おおひなた:『レコード大好き小学生カケル』は、今まで影響されてきたもの、見聞きしてきたもの、そして大学で教員として教えてきたもののすべてを結集した集大成のような作品にしたいと思って描いています。始まるまでにも試行錯誤があって、はじめは『目玉焼き』のようなリアル寄りの絵柄でした。そして、主人公のアラフォーの主婦がレコードに目覚めていく……というストーリーを考えていましたが、ちょっと地味すぎて、やり直しました。
――まるで別物ですね。
おおひなた:いっそのことキャラを総とっかえにして、アラフォーのリアルな生活より、ギャグに振り切ってレコードを題材に描こうと。よく考えたら、ギャグ漫画なら主人公が多少常識外れなことをやっても許されるんですよね。そして、原点回帰の意味で、90年頃の絵柄に戻しました。
――絵柄の話が出ましたが、おおひなた先生は創作した漫画のジャンルが多彩ですし、展示を見てわかるように、絵柄も大きく変化しましたよね。
おおひなた:「月刊プリンセス」で、まさか自分が少女漫画誌に描くことになるとは思いませんでした(注:作品は『空飛べ!プッチ』)。絵柄については、『スーツマン』あたりからリアリティのあるストーリーものを描きたくて、意識的に頭身の高いキャラクターを描くようにしました。
――ご自身でも、ここまで幅広い作風になるとは思わなかったのではないでしょうか。
おおひなた:いや、でも根本は変わっていないので、自分としてはそこまで幅広いものを描いているとは思っていません。ストーリー漫画にも絶対にギャグを入れてしまいますし。これから作風を広げるとしたら、ギャグ無しのストーリー漫画になるでしょう。
■京都展に合わせて漫画の絵巻物を制作
――今回の展示で興味をそそられたのは、漫画の絵巻物です。WEBTOONのような縦スクロール漫画を紙で表現する、画期的な試みですね。
おおひなた:縦スクロール漫画は紙のコミックスにするのが難しいのがネックで、そこが日本の漫画家が二の足を踏む一因になっていると思います。だったらコミックス化をしてみようということで検討した結果、絵巻物になりました。今回は縦スクロールで製作しましたが、伝統的な意味では、横スクロールの方が合っているのかもしれません。
――しかも装丁が凝っています。
おおひなた:そこは、きちんとした業者に依頼して作っています。知り合いに装丁を手掛ける会社に勤めている人がいて、相談したところ、絵巻も製作できると言われたんです。すぐに話し合いをして、実現の可能性を探っていきました。
――伝統的なスタイルの絵巻物は、京都の展示会にぴったりですよね。
おおひなた:今回の絵巻物は限定で販売もしていますが、日本最古の漫画といわれる「鳥獣戯画」も京都の高山寺にありますし、京都に合っていると思います。「京都国際マンガミュージアムには漫画の歴史に関する展示もありますが、電子書籍ではない最新のコミックスの一例として、この絵巻物が展示されたら面白いですよね(笑)。
■『カケル』をしっかり完結させたい
――おおひなた先生は常に新しい企画に挑戦を続けています。今後の抱負を教えてください。
おおひなた:今は『レコード大好き小学生カケル』を最後まで描き切ることしか考えていません。カケルは小学生ですが、中学生になったら中学生編、その後には高校生編、予備校生編……と続き、課長編、取締役編まで続けたいなと思っています。
――『島耕作』シリーズみたいですね(笑)。
おおひなた:レコードって、年齢に合わせた楽しみ方があるんですよ。子どもはお小遣いでなかなかレコードが買えないし、高級なオーディオは揃えられないじゃないですか。それでも、年齢に合った聴き方、こだわり方があるんです。カケルの成長に合わせて、レコードの魅力を描きたいなと思っています。
――完結どころか、永遠に描けそうじゃないですか。手塚治虫先生の『火の鳥』のように、おおひなた先生のライフワークになりそうです。
おおひなた:いやいや、まずは作品の人気が出てくれないと続きが描けませんから(笑)。4月12日に単行本の1巻が出ますので、まずはしっかり売ることを目標に頑張っていきたいですね。
▼展示会情報
「What an OHINATAful World ~この素晴らしきおおひなたごうの世界~」
会期/2024年3月14日(木)~6月25日(火)
※前期:3月14日(木)~5月7日(火)、後期:5月9日(木)~6月25日(火)。会期中、一部原画の展示替えが行われます。
休館日:水曜日(3月20日、5月1日を除く)、3月21日(木)
時間/10:30~17:30(最終入館は17:00まで)
会場/京都国際マンガミュージアム
〒604-0846 京都市中京区烏丸通御池上ル(元龍池小学校)
料金/大人900円、中高生400円、小学生200円(ミュージアムの入館料)
https://kyotomm.jp/ee/ohinataful-world/