『君たちはどう生きるか』アカデミー賞受賞から考える、長編アニメの世界的新潮流
これらについては、漫画を原作にしたTVシリーズとして世界で作品が見られるようになった影響も大きいだろう。ただ、新海誠監督の『すずめの戸締まり』も約16億円の興行成績を北米であげている。単独のオリジナル作品でも興味を持たれる状況が出て来ているのは、『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞を受賞した21年前とは大きく違う。今回に留まらず続々と日本発の作品が、アカデミー賞なりアニー賞にノミネートされる可能性は少なくない。
目先では、スタジオポノックが制作した百瀬義行監督の『屋根裏のラジャー』(2023年)が気になる。国内では今ひとつ伸びなかった興行成績だが、海外の児童文学がベースにあるという点は『君たちはどう生きるか』と同じ。ルックもスタジオジブリの系譜を受け継いでいる。そこに加えて絵本のような彩色で他のアニメ映画とは違った雰囲気を味わえる。欧州のアニメ作品に近いテイストもあって、公開されれば評判を呼びそうだ。
シンエイ動画が制作した八鍬新之介『窓ぎわのトットちゃん』(2023年)はどうだろう。戦前の日本が舞台で、楽しげな子供たちの日常に静かにしのびよる戦争の影といったニュアンスが伝わるかは不明だが、アニメとしての高い完成度は一見の価値ありと思われるかもしれない。何より第81回アカデミー賞で短編アニメ賞を『つみきのいえ』で受賞した加藤久仁生監督が、3カ所ある幻想的なシーンのひとつを受け持って独創的な映像を作り出している。こうした知名度が働くかもしれない。
とはいえ、世界が長編アニメを作り出している今、日本だけが勝ち上がっていくことは難しい。第36回東京国際映画祭で上映されたティエン・シャオポン監督の『新海レストラン』は、ディズニー/ピクサー作品と親和性を持った3DCGのルックで興味を誘いつつ、海を舞台にした幻想的なストーリーを紡いで感動を与えてくれる。中国のアニメは国内にとてつもない観客を抱えていて、ケタ違いの資金をかけられる。そこに映像の技術が乗り、中国固有の神話や伝承によらない普遍的なストーリーが乗ったとき、世界を狙える作品が出てくる可能性は高い。
今は我慢のディズニー/ピクサーもこのままではいないだろう。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の続編制作も決まったイルミネーションも強敵だ。世はまさに長編アニメ戦国時代。群雄が割拠し始めた中でポスト宮﨑駿監督となるのは誰か? それとも次もやはり宮﨑駿監督か?