阿佐ヶ谷駅前の名物書店「書楽」を「八重洲ブックセンター」が継承 「町の本屋」は今後どう守るべき?

 「八重洲ブックセンター」が、阿佐ヶ谷駅前の書店「書楽」の店舗を継承すると発表した。「書楽」は1980年に開店した老舗。諸般の事情により1月8日に閉店を決めていたが、反響の大きさゆえ、閉店は1月31日に延期された。その後はシステムなどの改修を行なったのち、2月中旬に「八重洲ブックセンター阿佐ヶ谷店」として再オープンする計画だという。

  「書楽」は文学の街としても名高い阿佐ヶ谷駅前の新刊書店で、一般的な新刊書のほかに人文・文芸系の本を多くそろえている点に特徴があり、仕事帰りのビジネスパーソンから学生、本好きまで幅広い層から親しまれた。今回の再オープンの決定を受け、ネット上では多くの喜びの声が投稿された。記者の知り合いで、中央線沿線住民の編集者もこう話す。

 「僕が住んでいる高円寺から中野の周辺も書店が減っています。阿佐ヶ谷はよく出かけますが、『書楽』は立地もいいし、よく本を買ってきました。先日も訪問したばかりですが、店頭にあった再オープン告知の紙を見て安心しました。阿佐ヶ谷から新刊書店が消えてしまう危機だっただけに純粋に嬉しいですし、『八重洲ブックセンター』の英断は素晴らしいと思います」

   一度閉店した書店が復活するケースはほとんどない。書店の跡地に別の書店がオープンすることも近年では稀で、ドラッグストアなど別業種の店舗になったり、地方都市では再活用もされないまま放置されている例も少なくない。

  2022年に閉店した静岡県沼津市の「マルサン書店仲見世店」が、2023年に2日間限定で復活営業した事例はあるが、あくまでも期間限定のキャンペーンの一環であった。それでもこのキャンペーンは反響が大きく、書店のシャッターが開いている光景をみて、沼津市民が喜んだという声も聞く。

  やはり、書店は地域のコミュニティの中心であり、存在することで街に賑わいが生まれるということがよくわかる。「書楽」は「八重洲ブックセンター」になるものの、従来の雰囲気を残したまま営業されると考えられ、盤石な体制のもと、より地域に密着した店づくりがなされることを望みたい。

  今回は書店によって書店が守られる形になったわけだが、先ほどの編集者は、「出版社も書店を守るために、何か取り組みを始める段階に差し掛かっているのではないか」と話す。

 「書店は出版にとって、読者に本を届けるための核といえる存在でした。けれども、今は出版社の中でも確実な売上が見込める一部の大型書店やチェーンにばかり営業の力を注ぎ、中小の書店を重視する人が少なくなってきている。特に大手出版社は電子書籍やメディアミックスが好調で業績も伸びているものだから、個人経営の書店に目を向けない人も多い。これは出版文化のあり方として正しいのかなと思います」

  今や駅前に書店がない町も珍しくなくなった。そんな中で届いた「書楽」店舗を継承しての再オープンの知らせは奇跡的といえるが、書店を守るためには、地域の人たちが買い支えることがもっとも重要だと思う。手軽な電子書籍もいいが、1人が月に1冊、本や雑誌を買うだけでも書店にとってはプラスになる。書店は地域の知識のインフラであり、地域の力で守っていく段階に来ているのだ。

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