『あなたがしてくれなくても』最終章突入記念インタビュー ハルノ晴が明かす、エンディングへの葛藤

創作の源は実際に体験した“嫌な出来事”

――キャラクターに関してはいかがでしょうか。リアルな心情描写が『あなたがしてくれなくても』という物語を一層盛り立てているように思います。

ハルノ:先ほど陽ちゃんのお話でも触れましたが、基本的には自分が実際に体験したり、感じたことを元にして作っています。逆に自分が体験したことじゃないと描けないですね。例えば、日常で起きた出来事や他人とのトラブル。それを経て感じた色んな思いを家庭のエピソードに置き換えるんです。

あと、私は幼い頃や昔の嫌な出来事をずっと覚えているタイプなので、それを都度引っ張り出してきて、その時に言われたセリフや感じたことをキャラクターの関係性に当てはめて……という感じで作品に落とし込んでいます。

小柳:ハルノ先生は全体の構想から考えるのではなく、各キャラクターの気持ちに沿ってエピソードを作られますね。「今彼女はこういう心境だから、こんな優しい言葉をかけられたら揺れてしまうんじゃないか」とか「こんな気持ちになったら離婚を決意するんじゃないか」とか。

例えば、みちにとって陽ちゃんの何が一番問題だったのか?と考えた時に、「その場しのぎを繰り返してみちの気持ちを蔑ろにしていたこと」なんじゃないかと。ならば、その蔑ろにされていたことに気づいた瞬間を一番印象的に表現できるのはどんなエピソードだろうと話していたら、陽ちゃんが子供部屋のない間取りのマンションを買おうと言い出す話をハルノ先生が提案してくださって、あのシーンが生まれました。

――ちなみに、一番描きやすいキャラクターと描くのが難しいキャラクターを挙げるとするならいかがでしょうか。

ハルノ:描きやすいのは陽ちゃんですね。

――冒頭では言うことを聞かないと仰っていましたが、意外にも描きやすいんですね。

ハルノ:彼は一番人間味があるキャラクターなんです。周囲にいる人や自分の中の黒い本音の部分も入っているのが陽ちゃんなので、一番描きやすいんですよ。対して、一番描きにくいのは新名さん。女性読者さんが多いことを考えると、「やっぱりときめきは必要だから王子様キャラにしなければ!」と思いながら描いているのですが、そういういつも女性に寄り添ってくれる完璧な男性の思考が分からないんですよ(笑)。だから、「新名さんって何を考えているんだろう?」「みちの何を好きになったんだろう?」とかを最近はずっと考えています。

――確かに新名さんは王子様のように優しくて完璧なキャラクターですね。

ハルノ:新名さんは、読者さんが憧れるような素敵な人でいてほしい。だからカッコ悪いところは描けないけれど、でも隙を描かないと人間味が出ないんだよな……と。バランスが難しいですね。

「メインではないキャラクターたちの今後もしっかりと描きたい」最終章の見どころは?

――女性キャラだといかがでしょうか。

ハルノ:しいて言うなら楓ですかね。新名夫婦が離婚する前の話を考えていたときに、「楓はバリバリ働いて自立しているし、1人で生きていけるはずなのに、なんでこんなに誠(新名さん)にしがみついているんだろう? どうして別れないんだろう?」と。ここでネームが止まった記憶があります。

小柳:最初は、「楓はプライドが高くて、周囲から誠に捨てられたと思われたくないから」という方向でネームを描かれていたのですが、二人とも全然しっくりこなくて。最終的にハルノ先生が「楓は結局誠のことが好きだから離れたくないんじゃないかな」とおっしゃってからは、すんなりネームが進みましたね。

――後輩の華ちゃんはいかがでしょうか? 実は一番しっかりしているというかなり存在感が強いキャラクターです。

ハルノ:当初は特に何も考えずに、みちの気持ちを補足するためのキャラクターとして出したんですよ。それこそ最初はちょっと嫌な感じで登場させたのですが、華ちゃんはだんだんとキャラクターを確立していって、意外にも人気キャラになりました。ちょっと嫌なことも言うけれど、妙に達観した位置から正論を言うキャラみたいな(笑)。華ちゃんが出ればなんとかなる! という感じで、今はかなり助けられています。

――そんな華ちゃんが今後どうなるのかもすごく気になるところです。最後に最終章の見どころについて教えてください。

ハルノ:メインではないキャラクターたちの今後もしっかりと描いて終わりたいと思っています。みち、陽ちゃん、新名さん、楓、そして華ちゃんや三島さん、みんながどんなラストを迎えるのか、しっかり見届けてもらえたら嬉しいです。

■関連情報
『あなたがしてくれなくても 12』
著者:ハルノ晴
発売日:2023年11月28日
価格:726円
双葉社サイト:https://www.futabasha.co.jp/book/97845758513280000000

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