漫画ライターが選ぶ「2023年コミックBEST5」ちゃんめい編 『猫に転生したおじさん』などバズる作品続々
今年もあと3日。正真正銘「今年も終わり」を実感する今日この頃。今回は、今年を振り返りつつ、私が思う2023年ベスト漫画を5つ紹介していきたい。
まずは、ようやくお正月気分が抜けて通常モードになってきた2023年2月。とある“おじさん”がX(旧:Twitter)に彗星のごとく現れた。それが、通称「ねこおじ」こと『猫に転生したおじさん』である。
“ねこおじ”旋風が止まらない!『猫に転生したおじさん』
ある日、猫に転生してしまった主人公のおじさん。猫の身体に戸惑いながらものんびりと野良猫生活を送っていたおじさんだったが、なんと生前の勤め先の社長に拾われることに。いつも怒りっぽく怖い印象しかなかった社長だが、自分(猫)を目の前にすると「きゃわいいねこたん」と人が変わったようにデレデレに。その後、“プンちゃん”と名付けられたおじさんは、社長とともに猫ライフを満喫していく。
プンちゃんが何らかのリアクションを取るたびに、その背後にはまるでスタンドのように生前の“おじさん”の姿が.....という非常にユニークな表現と共に展開していく本作。しかも、ここで描かれている“おじさん”とは、従来の創作で描かれてきたシュッとしたイケメン風味のおじさんなどではなく、言葉を選ばずにいえば“ガチもんのおじさん”だ。だからこそ、猫と連動したおじさんの表情がなんともシュールで笑いを誘うし、なぜか読めば読むほどそのおじさんが可愛く、愛おしく見えてくるという“ねこおじマジック”に驚かされた。
今では最新話がXに投稿されると、瞬時に5〜10万近くいいね がつくほど、アツい注目を集めている「ねこおじ」。読者からのアイディアをもとにしたLINEスタンプのリリース、12月にはファミマとのコラボ、そして待望の単行本第1巻の発売と、確実に人気と勢力を拡大している本作は今年のベスト漫画を語る上で欠かせないし、来年もますます目が離せない。
大きな感動を呼んだ『君と宇宙を歩くために』
気温も湿度も高く、うだるような暑さに見舞われた今年の6月。そんななか、ある作品の1話が公開されるやいなやネットでは多くの人が涙し、重苦しい気候とは裏腹に瑞々しい感動に包まれた。タイトルは『君と宇宙を歩くために』。“普通”のことが出来ずに苦しむヤンキー高校生と転校生が織りなす友情物語だ。
みんながいう“普通”なんてモノに明確な基準はないし、普通の度合いを測る物差しなんてないけれど。例えばその場の空気を読んで会話をしたり、マニュアル通りに仕事をこなしたり.......世間一般が求める“普通”というものはやっぱり存在すると思う。『君と宇宙を歩くために』の主人公であるヤンキーの小林は、まさにその普通ができない、いや追いつけないのだ。そのせいで勉強もバイトも続かず、何においてもドロップアウト気味。そんな彼の人生は、転校生の宇野との出会いをきっかけに大きく動き出す。
作中では言及されていないが、小林はおそらくグレーゾーン、そして宇野は発達障害だと思わせる描写がある。本作はそんな2人に普通を強いるのではなく、普通というものに歩幅を合わせる.......つまり、この世界で深く呼吸して、心地よく生きていくにはどうしたら良いのか? と、各々のペースと方法で試行錯誤し、前進していく様子が描かれている。今いる場所から歩み出そうとする姿は、それが前でも、例え右や左だったとしても、こんなに眩しいものなのだと。新しい光を掴んだような気持ちになる作品だった。
『ダイヤモンドの功罪』平井大橋
6月といえば、あの“すごいマンガ”の1巻が発売されたのもこの時期だった。その名も『ダイヤモンドの功罪』。年末の風物詩である「このマンガがすごい!2024」で、オトコ編1位に輝いた作品だ。
本作の主人公は、運動の才に恵まれすぎた少年・綾瀬川次郎。どんな競技でも驚異的なプレーを見せる次郎は、どこへ行っても、何をしても周囲から嫉妬を超えて疎まれてしまう孤高の存在だ。そんな彼は、テニスに体操、水泳と、数々の競技を転々とするが、ある日“みんなで楽しく”がモットーの弱小少年野球チーム・バンビーズと出会う。
試合に出れなくても良い、結果が残せなくても良い、ただみんなで楽しく一緒に野球を謳歌する。そんな今まで体験したことのない楽しさ、何よりもチーム全員が自分の味方であると言う状態に「オレの居場所は野球だったんだ!」と確信する次郎だったが、彼の類い稀なる才能はやがて全てを崩壊させていく。例えば、次郎の天賦の才を前に、途端に目の色を変える大人たち。また、そんな大人たちから何かを感じ取ったかのように、次第に劣等感や怒りの眼差しを向け、態度を変化させる仲間たち.......。
本作には、従来のスポーツ漫画で描かれてきた友情、努力、勝利のような三原則は一切ない。その代わりにあるのは、人の妬み嫉みといった薄暗い感情と、天才ゆえの計り知れない孤独。そんな極限まで“才能”を突き詰めたヒリつくようなストーリー展開、壮絶さに身震いが止まらない。間違いなく「このマンガがすごい!」の称号にふさわしい衝撃作だったように思う。その後、次郎は全国の強豪たちが集う野球チームへと活躍の場を移すが、果たしてその“ダイヤモンド”の才能が存分に耀く瞬間はくるのだろうか。