『君と宇宙を歩くために』『大怪獣ゲァーチマ』『雷雷雷』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 11月のおすすめ新刊漫画

『いろんな私が本当の私』原作:長嶋有先生 / 漫画:雁須磨子先生、コナリミサト先生、丹羽庭先生、鶴谷香央理先生、三本阪奈先生、米代恭先生

 芥川賞・大江賞受賞作家である長嶋有先生の小説が、6名の人気女性漫画家たちの手によってコミカライズ。『あした死ぬには、』の雁須磨子先生、『凪のお暇』のコナリミサト先生、『トクサツガガガ』の丹羽庭先生.......と、今注目の漫画家が大集結したなんとも贅沢な一冊だ。

 原作となっている6つの小説はすべて女性が主人公であり、つまりタイトルの『いろんな私が本当の私』の通り、年齢も職業もさまざまな“私”が登場する。だが、共通しているのは、どこか身に覚えがあるような、でもソレをなんと表現したら良いのかわからない.......そんな複雑で緻密な感情を捉えている点。その感情たちが、コマの余韻やキャラクターたちの繊細な眼差しといった漫画ならではの表現によって、よりリアリティーを持って胸に迫ってくる。

 個人的にお気に入りなのは、『ご成長ありがとうございます』の三本阪奈先生が描く『舟』というお話。主人公は、高校2年生の奈津美。1年後に控えた大学受験を意識しながら、歯の矯正をし始めたというキャラクター。時代背景的にコロナ禍とリンクするため、登場人物のほとんどがマスクをつけている。顔の表情が見えないけれど、歩道橋を降りる瞬間、1人で電車に乗ってスマホを触っている瞬間。そんな些細な情景から伝わってくる、なんだか懐かしい気持ちになる感情に注目してほしい。

『佐々田は友達』スタニング沢村先生

 学生時代、教室の中には小さな村がたくさん存在していた。ざっくりいうと、陽キャ、陰キャ。さらに細かくすると、文化系、スポーツ系、不良系など..........『佐々田は友達』には、そんな学生時代の教室のリアルが詰まっている。

 本作の主人公は、あまり学校が好きではないおとなしい性格の佐々田絵美。彼女はなんとなくオタクよりの文化系の村に属しているけれど気を許せる友達はまだいない。そんなある日、陽キャの権化と言っても過言ではない、派手なクラスメイト・高橋優希にロックオンされてしまう。例えば、いきなり声をかけたり、強引に帰り道についてきたり........危害を加えられるわけではないけれど、だからといって盛り上がるわけでもなく「なぜ?」という不思議な時間が2人の間に流れる。だが、やがて佐々田の心のなかには変化が訪れる。それは、自分と正反対な人と関わることで浮かび上がる自分の輪郭。自分は、優希のように自分の意見をはっきりと言えないけれど、もしも彼女のように振る舞えたらどう生きたいのか?と。

 大人と子供のはざまで揺れる高校生が、自分を自覚していく様子を柔らかな筆致で描く本作。佐々田の高校生活と、優希との友情を今後も見守りたい。

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