「バラエティに魂を売ったような人間がいないとダメ」 マッコイ斉藤が考える、テレビとお笑いの現在地

ウマが合った人たちとばかり遊んでいた

――最初の入社面接もそうですが、そんなマッコイさんのことを、要所要所でフックアップしてくれる人がいたことも、本書を読んでいて印象的でした。それは何でなんでしょうね?

マッコイ:何でなんでしょうね(笑)。それは、まわりにめぐまれたとしか言いようがないです。すごい才能のある人たちが要所要所で僕を救ってくれたというか、どん底に落ちそうになったときは必ず誰が出てくるっていう。そこはもう感謝しかないです。『元気が出るテレビ』にいた頃も、俺はすごい生意気だったから誰もADにつけたがらないんですよ。だけど、いちばん面白いVTRを撮る宗実隆夫さんというディレクターが俺をADにつけてくれて。その人が俺に編集の仕方からロケのやり方まで、全部教えてくれたんです。あと、その頃からたまたま友だちで、ずっと一緒に遊んでいた人たちが……。

――極楽とんぼの加藤浩次さんやおぎやはぎの矢作兼さんとは、お互い無名時代からの友人だったんですよね。

マッコイ:そうですね。山本圭壱さんもそうですし、あとネプチューンの堀内健さんとか、若い頃からずっと一緒に遊んでいた芸人さんがどんどん結果を出して、ゴールデンで天下を取っていった。それはやっぱり、すごくいい刺激になりました。

――ただ、その方々とは別に仕事を通して知り合ったわけではなかった。そこが面白いところですよね。

マッコイ:そうですね。加藤さんと初めて会ったのは俺が21歳とかの頃なので。だから今でも、一緒に仕事をするのはちょっと照れくさいというか、できればあんまりしたくないんですけど(笑)。若い頃から職場の人間とかではなく、そういうウマが合った人たちとばかり遊んでいたようなところがあったんですよね。仕事が終わったら業界の人たちとはツルまずに、そういった連中とひたすら遊んでいて。別に将来、一緒に仕事をするためにつき合っていわけじゃないというか、ホント損得まったく関係ないところで、ただ一緒にいて面白かったから遊んでいた。みんな別に裕福でもなかったし、自信があるのはお笑いぐらいでした。

――ただ、本書の終盤にも書かれているように、みなさん有名になっていくと同時に、だんだんと時代が変わっていきます。特に本書の「4部」に書かれている「コンプライアンスとの戦い」「YouTubeのいいとこ悪いところ」といった項目は、現在に繋がる話として非常に興味深く読みました。

マッコイ:そうですね。コンプライアンスなんていう言葉が一般的に言われるようになったのって、ここ10年ぐらいのあいだですよね。「コンプラ的にこの企画はやらないほうがいいだろう」とか。ひとつでもクレームがきたら、それでもうアウトですから。99人が面白いと言ってもひとりがクレームを言ったら、その企画は全部ダメみたいな。ただ、かつての芸人さんたちの仕事ってもっとすごかったと思うんですよね。それこそ、上島竜兵さんたちだったり、あのへんの人たちはもう別格の仕事をしていた。時代の変化もある程度はわかるというか、もちろんそれに合わせいくことも大事だとは思うんです。ただ、かつてのように勢いのある笑いが、もっとあってもいいんじゃないかとは思いますね。

なにもかも排除するのは、やっぱり何か違う

――そういう意味で、本書で書かれている『みなさんのおかげでした』の人気企画「男気ジャンケン」の誕生秘話は、どこか今の時代に通じるものがあったように感じました。負けた人が払うのはいじめだけど、勝った人が払うならどうなんだっていう。

マッコイ:ああ、そうです。あの企画は最初、上からダメだって言われたんですよ。負けた人にお金を払わせるなんて「そんなのダメだ。いじめに見える」って。それで「じゃあ勝った人が払うならいいんですか?」って言ったら、「えっ?」とか言って。しばらくしてから「勝った人が自分で払いたいって言うなら、別にいいんじゃないか」みたいな話になった。だったら、それを「男気」と呼べばいいじゃんって思って「男気ジャンケン」になったんですよね(笑)。

――実際、流行りましたもんね。

マッコイ:そうですね。今でも若い人たちがやっているのをたまに見掛けたりしますから。それこそYouTuberの子たちがやっていたりして。そういうのを見ると、やっぱり嬉しいですよね。俺らがあんなバカみたいな会議で「誰かスタバ買ってくる?」「ジャンケンで決めよう!」とか、そんな感じで決まった企画がこんなに全国に広まるんだなって。

――本書の中では、「逆転の発想」と書かれていますけど、「感じ方」というのは、ある種「捉え方」次第みたいなところがあって……。

マッコイ:まあ、昔はもっと自由でしたよね。ただ、時代が変わったことに文句を言っていてもしょうがないし、ある程度のルールはあっていいと思うんです。とはいえ、一つ一つの言葉を取って「これを言われたら傷つく人がいるからやめたほうがいい」って言葉狩りみたいな感じでなにもかも排除するのは、やっぱり何か違うような気がしていて。たぶんテレビの世界がいちばん窮屈になっていますよね。あれもダメ、これもダメっていう。YouTubeとかを観ていると、昔のテレビぐらい緩いものが結構あったりするわけで。

――本書にもちょっと出てきましたけど、昨今注目されている「1分間最強」を決める大会『BreakingDown』については、かなり好意的に見ているようですね。

マッコイ:『BreakingDown』はいいんじゃないですか。だってあれは昔TBSでやっていた『ガチンコ!』の「ファイトクラブ」みたいなものですよね。まあ、いわゆる「お笑い」とはまたちょっと違うのかもしれないけど、ああいう「熱」みたいなものはすごくいいと思います。熱き男たちの戦いをリアルにやったら、ああなったっていう。それこそ逆転の発想ですよね。普通だったら「ケンカはやめろ」っていうところを、「ケンカで決めればいいじゃん」っていう(笑)。

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