【漫画】遊園地の帰り道、電車で目にした新聞記事にゾワッ……怖くて切ないショートストーリーに反響
双葉すずき(以下、双葉):今年の5月にはじめてコミティア(一次創作物の即売会)に出展することとなり、新作を集めた小さな本を出せたらと思い本作を描くこととなりました。
日常生活のなかで自分は相手のことを大切に思っているけれど、相手は自分のことをどう思っているかわからず不安や孤独感を感じることは多いと思います。そんな気持ちを漫画にできたらいいなと思ったことが創作のきっかけです。
ーー作品のテーマを描くために電車やトロッコをモチーフとした理由は?
双葉:「夜の川を渡る電車」というモチーフは「三途の川」の話や宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から着想を得ました。電車が持つ「越境」というイメージ自体に、死や不安定さといったものを連想させる印象がある気がします。
また「車内は照明でこんなに明るく照らされているのに、窓の外は真っ暗闇で何も見えない」という対比や「どこから来てどこへ行くのか分からない、なぜその電車に乗っているのかも分からない」という不安が描きたかったという思いもあり、舞台装置として電車を選んでみました。
ーー本作のはじまりとおわりでは、共通して電車を映したコマが描かれていました。
双葉:ふたりの置かれている状況の説明という意味もありますが、本作は最初のページと最後のページの対比を生むために描きました。
最初と最後の置かれている状況や会話の内容は同じであるものの、見える景色は異なる。1ページ目は平穏な様子なのに、8ページ目は信用できず不安な気持ちを覚えるといったコントラストを生み出すために、どちらのページでも電車の走る様子を描きました。
ーー主人公とヒナさんの関係について教えてください。
双葉:ふたりについて一応考えていた設定はあるのですが、これは秘密にしていた方が面白いかと思っています。もしかしたらふたりの身には何も起きていない平和なお話かもしれないですし、もしかしたらどちらかがもうこの世からいなくなっているのかもしれません。
ーー印象に残っているシーンを教えてください。
双葉:主人公がヒナちゃんの手を握るシーンです。主人公はヒナちゃんの手をつよく握るのですが、ヒナちゃんは主人公の手を握り返さなくて。「自分が相手から愛されているかどうか分からない」という、手応えがない日常への不安を表すことが出来ればと思い、このシーンを描きました。
「大丈夫大丈夫」と自分に言い聞かせながら手を握り続ける姿に、主人公の感じている寂しい気持ちを載せられたらいいなと思って描いたので、個人的にも思い入れがあります。
ーー作中ではたびたび「ゴトンゴトン」と音を立てる電車が描かれました。
双葉:会話に間を作ったり、心がかき乱されるような音で空気感を演出し、作品に緊張感が出せたらいいなと思い描きました。また、どこへ行くかわからないのに、電車は音を立てながらどんどんと進んでいってしまう。そんな不安も込めることができればと考えていました。
ーー本作を描くなかで使用した画材や作画のなかで意識したことを教えてください。
双葉:普段から作品はデジタルツールで描いているのですが、デジタルツール特有のツルっとした線ではなく、少しザラザラとした線を描けるよう意識しています。本作ではアナログツールの描線とデジタルツールの描線を足して2で割った線、ドットが大きくちょっとガビガビとした線を意識しながら描きました。
ーー今後の活動について教えてください
双葉:漫画はずっと描いていきたいと思っているのですが、自分にしかできない表現に挑戦していきたいです。長めの漫画の構想も考えていますし、本作のように短い漫画の構想も考えていて。自分の中にあるものを全部出し切るまでは、いろんなかたちで漫画を描けたらいいなと思っています。