『地獄楽』を象徴する「異形」の存在、師匠・藤本タツキ『チェンソーマン』との共通点と違いを考察

師匠・藤本タツキとの共通点と違い

 シンプルでありながら強烈なデザインは、藤本の代表作『チェンソーマン』の特徴でもある。最初の1体である「トマトの悪魔」に始まり、作中に登場する悪魔は読者が一目でモチーフを読み取れるものばかりだった。

 また、主人公であるチェンソーマン自体、頭部と両手がチェンソーというストレートなデザインだ。

 さらに『地獄楽』の異形生物と『チェンソーマン』の悪魔の共通点として、いい意味でツギハギ感があることも挙げられるだろう。いずれも人体の一部を増殖させ、接合するようなデザインが頻出しており、師弟の好みがよく似ていることを感じさせる。

 ただし両者のデザインには共通点だけでなく、相違点も存在するようだ。同じく『チェンソーマン』3巻発売記念のインタビューで、賀来は藤本との考え方の違いについて語っていた。

 賀来はデザインを行う際、好きなものの魅力をわかりやすく伝えるため、あれこれと要素を継ぎ足す作風だと告白。しかし藤本は、自身が好むデザインをダイレクトに反映させるところがあるという。

 それを踏まえて見てみると、『地獄楽』の巨人が持つ錫杖や半魚人の数珠などは、仏教的な世界観を演出するだけでなく、賀来の作風を如実に反映しているのかもしれない。

 簡潔にまとめるなら、藤本は「引き算の美学」、賀来は「足し算の美学」の持ち主とでも言うべきだろうか。ますます洗練されていく師弟のデザインに、今後も注目していきたい。

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