漫画は「嘘」ではないーーマンガ大賞2023大賞『これ描いて死ね』が伝える「本当のこと」

※本稿には、『これ描いて死ね』(とよ田みのる/小学館)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 とよ田みのるの『これ描いて死ね』が、「マンガ大賞2023」の大賞を受賞した。

 『これ描いて死ね』は、東京から南へ約120キロの位置にある伊豆王島を舞台にした、4人の女子高生たちの物語だ。

 主人公の名は、安海相(ヤスミアイ)。子供の頃は友達ができなくて、漫画ばかり読んでいた彼女には、「ポコ太」というタヌキ型ロボットのイマジナリー・フレンドが(いまも)いる。

 そんな相が、現実世界の「仲間」たちや、頼れる“教師”と出会うことで、物語は動き出す。

 まず彼女は、ひょんなことから、何かにつけて自分を「指導」しようとしてくる堅物教師の手島零(テシマレイ)の正体が、長年憧れ続けた漫画家・☆野0(ホシノレイ)だったという衝撃の事実を知る(実はポコ太も元々は☆野のキャラなのだ)。それならばと、相は、数少ない友人の1人である赤福幸(アカフクサチ)を巻き込んで、手島を顧問に迎えて「漫画研究会」を作ろうと一念発起するのだったが、顧問を引き受けるための条件として、手島が要求してきたのは「漫画を1本描くこと」だった。

 これは漫研を作る以上、当たり前の話だともいえるが、なかなか厳しい条件であるともいえよう。というのは、一度でも漫画を描いたことがある人ならわかると思うが、習作だろうがなんだろうが、とにかく物語を最初から最後まで描き上げるというのは、本当に辛く苦しいことだからだ。

 なお、ここから先の展開を細かく書くのはやめておこう。もちろん相は、稚拙ではあるが、可能性を感じさせもする作品をなんとか仕上げて(つまり、手島の心を動かして)、漫画研究会は設立されることになる。

 さらには、絵が苦手な相の代わりに作画を担当することになる藤森心(フジモリココロ)や、すでに同人誌の世界ではカリスマ的な人気を誇っている転校生・石龍光(セキリュウヒカル)が「仲間」に加わり、東京から遠く離れた自然豊かな島の片隅で、漫画をめぐる異才たちによる熱いケミストリーが起きつつあるのだった(ただし、石龍は、相たちと親しくはなるのだが、漫研には入らない)。

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