『HUNTER×HUNTER』連載再開に向けて思い出したい、ゴンという“異常な主人公” 常軌を逸した精神力を考察
連載再開に向けて始動していることがTwitterで伝えられている、「週刊少年ジャンプ」の人気漫画『HUNTER×HUNTER』。作者・冨樫義博氏の体調というやむを得ない事情で長期休載が常態化していたが、無理のない掲載ペースを模索中のようで、安定的に物語が進行することにファンの期待が高まっている。
『HUNTER×HUNTER』が本格的にリスタートする前に、思い出しておきたいことがある。それは、忘れられがちな「ゴン=フリークス」という主人公の魅力だ。彼の姿が最後にきちんと描かれたのは、コミックス33巻に収録された345話であり、「ジャンプ」で言えば2014年6月16日発売号に掲載された回のこと。約7年半前から、ほぼ出番のない状態が続いているのだ。
それでもゴンが「空気」になっていないのは、少年漫画史に残る言っていいエピソードの印象が強く残っているからだろう。ゴンはいまの実力では太刀打ちできない宿敵・ネフェルピトーを打倒するため、「もうこれで終わってもいい」という覚悟で自身を無理やり成長させ、思いを遂げた。その姿は「ゴンさん」と呼ばれてネットミーム化しているが、代償として念能力を失い、物語の本筋からドロップアウトしてしまった。現在は故郷のくじら島でやれることを探しているところだ。
しかしこのゴンというキャラクターは、主人公だということを差し置いても、早期の再登場を強く期待したくなる存在だ。その魅力は、圧倒的な潜在能力でも、キャッチーな必殺技(ジャジャン拳)でもなく、常軌を逸した精神力にあるように思える。
無邪気な好奇心や、恩人であるカイトの死に対する反応は子どもらしくもあるが、基本的に心が揺れないのは、ハンター試験や幻影旅団との邂逅でわかる通り。目利きに定評がある鑑定士・ゼパイルは、ゴンを評して「目利きが全く通用しない 五分の品」と語っており、「善悪の区別なくすごいと思えば賞賛し、心を開く」ことに危うさを感じているが、これも言い換えれば、「どんな理屈にもブレない」パーソナリティということだ。
その精神力の凄まじさがよく表れていたのが、キメラアントの本拠と言える宮殿に潜入するミッションだ。その恐ろしさが強調され尽くしていた後だけに、緊迫感が高まる場面で、「モラウのカウントダウンと共に ゴンの瞳が深く暗く そして静かに冷たく沈んでいくのを 横のキルアだけが気付いていた」という名ナレーションが印象深い。天真爛漫な子どもに見えて、暗殺者一家のサラブレッドであるキルアより静かに集中し、その後、不測の事態に大半のメンバーが硬直するなかで、一瞬の間もなく最悪の事態を見越した行動を取っている。具体的な能力より、頭の構造や精神力の“ヤバさ”が際立つ主人公なのだ。
これまでは「いつまで読めるのか」「今回の10話でどこまで進むのか」と、物語に集中できない読者も少なくなかったはずだが、次に連載が再開されれば、複雑な展開が続く原稿のエピソード「カキン王国王位継承戦」もしっかり復習し、追いかけるファンが戻ってくる可能性がある。そのなかで、すべての読者の期待を背負い、異端の主人公はいつ本編に復帰してくれるのか、注目したいところだ。