『チェンソーマン』第二部で女性を主人公にした意味 「ヒーロー VS ヒロイン」の構造を読む
※本稿は『チェンソーマン』のネタバレを含みます。
『チェンソーマン』第二部の第123話が、3月15日に「少年ジャンプ+」にて公開された。『チェンソーマン』は第二部以降、第四東高等学校に通う少女・三鷹アサの視点で物語が進んでおり、アサは戦争の悪魔こと「ヨル」と肉体を共有している。アサがその肉体を返してもらうための条件として、ヨルから提示されたのは「チェンソーマンを倒すこと」。つまり、第二部はヒロインであるアサと、チェンソーマンことデンジがぶつかり合うことが予感される物語なのだ。
第123話では、デンジとアサが恋愛関係となりそうだった「お家デート」から一転、アサが人々にネガティブな感情を抱かせ、飛び降り自殺をさせる「落下の悪魔」と対峙し、否応なく戦いに巻き込まれる様子が描かれた。一方、デンジは同居する支配の悪魔ことナユタに促され、「落下の悪魔」を倒しに行くことを決意。飢餓の悪魔ことキガちゃんらも不穏な動きを見せており、混戦となる可能性もありそうだ。
『チェンソーマン』第一部では、デンジが想いを寄せていたデビルハンターのマキマこそがラスボスの「支配の悪魔」であり、その衝撃的な展開は多くの読者を驚かせた。思えば第1話のキービジュアルでは、デンジのチェンソーにマキマの顔が映り込んでいて、いつか二人がぶつかり合うことが予見されていた。第二部のキービジュアルは、アサとチェンソーマンが睨み合う構図となっており、今後の展開ではその関係性が具体的な暴力となって表出すると見る向きもある。
『チェンソーマン』の中で繰り返し描かれる「ヒーロー VS ヒロイン」の構造について、ドラマ評論家の成馬零一氏に解説してもらった。
「『チェンソーマン』におけるデンジと女性キャラの関係は、6巻におけるデンジの台詞『俺が知り合う女がさあ!! 全員オレん事殺そうとしてんだけど!!』に象徴されるように、敵対する存在として描かれています。ラスボスだった上司のマキマは、デンジにとっては母のような存在であり、年上のお姉さんのような存在でもあり、憧れの対象でした。デンジにとって女性は、天使と悪魔の間で揺れ動く極端な存在で『思春期の男の子から見た女性そのもの』だと言えます。マキマはその筆頭で彼女を倒したことで失恋という喪失感を抱えたデンジは、男として成長していく。その意味で第一部は、デンジの母殺しの物語だったと言えます。「女性とどう向き合うのか?」というテーマは、男子にとっては青年期における大きな課題で、古くは松本零士の『銀河鉄道999』などで描かれてきました。こういった思春期の少年の葛藤は、『行け!稲中卓球部』や『ヒミズ』の古谷実。近年では『血の轍』の押見修造が格闘している題材で、青年漫画誌的なテーマです。『チェンソーマン』が画期的だったのは、『週刊少年ジャンプ』らしい変身ヒーローもののバトル漫画でありながら、青年漫画的なテーマを扱ったことで、だからこそ従来の枠にとどまらない幅広い読者を獲得することができたのではないでしょうか」
『チェンソーマン』における女性キャラクターには、他にもさまざまな立ち位置がある。
「第一部でいうと、兄妹のように対等な関係だったパワーや、最後まで不可解な存在だったコベニも注目すべきキャラクターでしょう。一見ハチャメチャに見えたパワーはわかりやすいポジションに落ち着きましたが、コベニは最後まで掴みどころのないキャラクターで、デンジにとって異質な、理解できない女性だったのではないかと思います。おそらく当初は、母でもなく妹でもない、等身大の女性として位置付けられたキャラクターだったと思うのですが、物語が進むにつれて、キャラクターが一人歩きしていったようにも見受けられます。第二部では、マキマの生まれ変わりである支配の悪魔ことナユタが、デンジの妹あるいは子どものような位置付けとなっていて、デンジは兄、あるいは父のような存在であろうとしている。そんなデンジの姿を見ていると男として成長したなぁと思います」
第二部がアサの視点で展開されるのは、男女を反転した場合の関係性を描こうとしているのではないかと、成馬氏は見ている。