【漫画】彼女と過ごした記憶は雨とともに……恋人との別れを描いたSNS漫画『気付いたら雨が降って』が切ない
ーー台詞や描写からふたりの心情を想像してしまった作品でした。創作のきっかけを教えてください。
葉や川いおり(以下、葉や川):くるりの『春風』という曲が大好きで、以前からこの曲に関する漫画を描きたいと思っていました。僕は音楽から創作のインスピレーションが沸くということが多く、この作品では『春風』を題材にしようと思いました。
大学生のときアコギサークルに入っていたのですが、1つ上の先輩が卒業発表会で『春風』を演奏していて。そのときの印象もあり『春風』には儚さ、綺麗さのある別れといったイメージを抱いていました。そんなイメージを漫画に落とし込めるように本作を創作しました。
ーー関係をもつふたりが別れることに至った背景は?
葉や川:本作ではふたりの背景はあまり考えていません。どんなに仲が良くてものっぴきならない事情で別れることはあると思いますが、ふと思い出したときによかったな、綺麗だったなと思える別れになってほしいという思いで本作を描きました。
ただふたりにとって別れることはつらいことだったと思います。離れたくないという思いに反し離れざるを得ない事情があって、でもしょうがないから別れなければいけない。そんな煮え切らない思いを抱いていたのだと思います。
ーー本作は雨や涙の存在が際立っているように感じました。
葉や川:本作を描くなかでふたりが会っているときに涙を見せてはいけないという思いがありました。最終的に主人公は涙を流してしまうのですが……。泣くまで彼は別れることに現実味を感じていなくて、傘を手に持ちながら砂浜に戻ったけれど彼女はもういない。そこではじめて彼は現実を知り、涙を流したのかと思います。
そんな彼と対照的に女性の方は最初のシーンから涙を流しているという設定でした。2ページ目で女性が「傘、買ってきてね」と話すシーンで彼女の顔は見えませんが、終盤の回想シーンでは涙を浮かべる彼女が登場します。その表情が序盤で見えなかった彼女の顔という設定です。
ーー男女の別れを描くなかで意識したことは?
葉や川:「今思い返すとあんなこともあったよね」と過去を振り返る感じでふたりの別れを描きました。当時は煮え切らない、ドロドロとした気持ちを抱いていたけれど、振り返ると綺麗な別れだったかもしれない。そんな心情を作品に落とし込みました。
ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。
葉や川:高校生のときにアーティスト『Aphex Twin』の曲に衝撃を受け、ファーストアルバムを20歳でつくったと知ってさらにおおきな衝撃を受けました。そのとき自分も20歳までに衝撃を与えられるようなものをつくりたいと思いました。しかしそのあと創作をすることもなく、大学を経て社会人となってしまいました。
ただ大学で入っていたサークルの先輩が卒業後もバンド活動を行っていたのですが、会社に勤める自分と比べ嫉妬してしまうことがありました。高校生のころは何か表現したいと思っていたのに、ずっとなにもしてこなかった。そんな後悔や会社勤めのストレスから、自分の気持ちを表現するために漫画を描くようになりました。
ーー葉や川さんの表現したいものやその欲求について、教えてください。
葉や川:僕は「特別な人間でありたい」というある種のコンプレックスを抱いていて。お恥ずかしい話ですが会社に勤めながら「自分は社会の歯車なんだろうな」と感じることがあり、そんな感情を捨てなきゃと思いつつも特別な人間になりたいという思いがあります。その思いを満たすために創作活動をしているのかと思います。
そのなかで自分にとって音楽はすごく重要な存在であるため、僕が音楽から受け取った感情を漫画で表現できたらいいなと思いながら創作しています。ただ現在はそのスタイルからの脱却も目指しています。
ーー今後の目標を教えてください。
葉や川:会社に勤めながら創作活動をするのではなく、商業誌で漫画を連載しながら生活をしたいというのが現在の目標です。商業的な媒体で漫画を掲載していただくためにはエンタメとしての表現が求められるかと思いますが、そんな表現も漫画を描いている身として挑戦したいことでもあります。
ただ自分を表現するためにも漫画を描くことは続けたいです。