『タコピーの原罪』に続くジャンプ+の問題作! 『宇宙の卵』が描く「簡易殺人社会」というディストピア

 その結果、インドネシア国内の秩序は少しずつ回復していくのだが「宇宙の力」の影響で、世界の風景が変わっていく様子は、2020年に新型コロナウィルスが世界中に広がり、各国でロックダウンや外出規制が行われるように変化していった時のことを思い出させる。力の発現を抑えるため、ゴーグルをかぶった人々が町中を歩く様子は、コロナ禍にマスクを着用して生活する私たちの姿とどこか重なって見えた。

 劇中に挟み込まれる教科書の記述にも、宇宙の力・発現に伴う社会秩序の変化を第一波、第二波という形で書かれている。その意味で本作は、コロナによる社会の変化をSF的アイデアで描いた社会派漫画としての側面が大きい。「暴力」という最も現代的なテーマにも、本作は深く踏み込んでおり、もしもすべての人類に超能力が備わり、誰でも簡単に殺人行為が可能な「簡易殺人社会」が到来したら、どういう社会になるのか?という社会シミュレーション漫画としての側面が強い。本作には、もしも暴力による死が当たり前となってしまったら「人はどのような形で社会と向き合えばいいのか?」という問いかけが、込められている。

 物語冒頭でルイは、戦争も飢餓も貧困も虐殺も、遠い未来の世界から見たら「事象の連続」に過ぎないという諦念と、その事象を変えるためには「教育」しかないという、2つの価値観を死の間際にある祖父から教わる。祖父の教えがあったからこそ、ルイは科学的分析によって「宇宙の力」の謎を解明しようとするのだが、「宇宙の力」について解き明かす姿をミステリーテイストで丁寧に紡ぎ出していく過程こそが、本作最大の魅力である。

 「簡易殺人社会」という言葉に象徴される壮大なテーマに漫画として完全に応えきれたかというと過不足は感じるが、新人作家の第一作と考えるなら、挑んだテーマの重さとストーリーテリングの巧みさにおいて、強い爪痕を残したと言えるだろう。

 作者の次回作が楽しみである。

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