創作漫画の主人公、美少女なのになぜ魅力的に見えない? プロ漫画家の添削で劇的ビフォー・アフター

 かつて漫画家デビューは狭き門だったが、現在では各種アプリやウェブサービスの隆盛により“掲載”の場が増え、より多くの作家が世の中に作品を届けることができるようになった。もちろん、人気作家への道は狭く険しいが、SNSでオリジナル漫画を発表してバズを起こし、連載につなげたヒット作も出てきている。例えば「このマンガがすごい!2023」オトコ編1位の『光が死んだ夏』(モクモクれん)は、もともとTwitterで発表され、TikTokで人気を拡大した作品だ。

 そんななか、YouTubeチャンネルで創作漫画の「添削」を行い、絶大な人気を博しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家であるペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさとともに、あくまで本人の長所を生かすアドバイスが心地よく、自分では絵を描かない人も楽しく視聴できるのが特徴だ。動画でイラストや漫画の添削を行うクリエイターは少なくないが、そのなかでも高い人気を誇り、チャンネル登録者数は15万人を超える。

 最新の添削動画は、「【漫画添削63】顔だけの主人公になってませんか? 〜プロ漫画家が教えます〜」と題されたもの。タイトルの通り、「主人公の描き方」にフォーカスし、魅力的に見せる方法や、“主人公がすべき行動”について解説を行なっている。

【漫画添削63】顔だけの主人公になってませんか? 〜プロ漫画家が教えます〜

 今回取り上げられたのは、学校の環境整備委員の活動として、初めて漫画にチャレンジしたという「にんじん」さんの作品。美術の先生やクラスメイトからは好評を得たそうだが、自分では納得がいかず、ハイド氏にアドバイスを受けたいという。

 漫画の内容は、環境整備委員の日頃のお仕事をテーマにしたもの。清掃に使うモップを交換する手順や、その大変さを上手に伝えており、きちんとオチも作っている。ハイド氏も「(主人公の)女の子の絵が可愛いですよね。これを見るだけで、上手だなと感じる人がいると思います」「初めてのチャレンジなのに、いろいろ考えて頑張って描いたことが伝わってきました」と好感。にんじんさんはハイド氏の動画をよく観るそうで、主人公を大きく描いたり、文字に頼らず絵で伝えることを意識していたりと、日頃から指摘されているポイントを押さえている。動画での学びが漫画制作に生きている、という好例だ。

 その上でハイド氏は、ネームを引き直して改善のポイントを伝えている。まず指摘したのは、主人公の女子生徒が、仕事の説明をしているだけで、働いているのは別の委員たちだということ。「環境整備委員の代表として登場するなら、誰よりも働いていないとダメ」とハイド氏。漫画から伝わってくる情報として、彼女は自分の手は動かさず仕事の大変さだけを強調しているので、「せっかく可愛く描けているのに、嫌な人に見えてしまう」という。この漫画の目的が「環境整備委員の仕事を伝えること」だとすれば、「面倒だと思ってやっている」と思われてしまうのはイメージダウンにつながりかねない。ハイド氏のネームでは、主人公が生き生きと仕事をしているように見える描き方に変更されている。

 「大変さ」の表現もモップの本数などテキストで示すのではなく、絵から伝わってくるように調整。オチのトラブルも「解決」まで描くことで、読後感がよくなっている。主人公が率先して働き、トラブルについても進んで頭を下げているのが好印象で、結果として、主人公が代表する「環境整備委員」の仕事が素敵なものに見えてくる。ハイド氏は「学校の活動としては十分な作品」と評価しつつ、漫画家として添削を行うなら、やはり「主人公を動かし、魅力的に見せること」がポイントになるようだ。

 言われてみれば当然のように思えることでも、「独学」では見逃しがちなポイントも多い。そのなかで、クリエイターの長所をしっかり評価しつつ、基礎的な技術からワンランク上を目指すための高度なポイントまで、優しく伝えているハイド氏の人気は高まり続けている。今後、「動画で勉強してプロデビューを果たした」という人気作家も登場するだろう。漫画家を目指す人も、プロがどんな意識で原稿と向き合っているか知りたい人も、チャンネルをチェックしてみてはいかがだろう。

■参考動画 https://www.youtube.com/watch?v=HkS-S0zL8cI

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