Z世代、なぜ「タイパ」重視する? 徹底した効率化の背景に「脱落したくない」不安

 Z世代の若者の間では昨今、コスパならぬ「タイパ=タイムパフォーマンス」が重視されているという。情報が溢れ、無限に提供されるコンテンツに囲まれた生活の中で、できる限り効率的に時間を使おうとするその姿勢は、デジタルネイティブにとっては当然なのかもしれない。学習塾では1.5倍~2倍速の動画で授業をするケースも増えており、それでも理解度は下がらないと評判だ。そうした風潮を反映してか、ビジネス書においても、『YOUR TIME ユア・タイム』(河出書房新社)や『限りある時間の使い方』(かんき出版)といった時間術にまつわるものがヒットしている。

 一方、『映画を早送りで観る人たち』(光文社)や『ファスト教養』(集英社)などの新書では、時短を重視するあまり、映画のように本来じっくりと鑑賞すべきコンテンツまでが「タイパ」の対象となっていることや、有名YouTuberによる本の要約だけで教養を身につけようとする姿勢に対して疑問符も投げかけられている。

 タイパを重視することの是非について、『ファスト教養』の著者であるレジー氏に話を聞いた。

「時間をうまく使い、効率的に情報を得ようとすること自体は悪いことではないでしょう。情報処理のスピードを上げることで余剰時間が生まれるのであれば、むしろ積極的に様々なツールを活用すれば良いと思います。しかし、塾の授業のように得たい情報がはっきりしているコンテンツであれば倍速で聞いても結果は同じかもしれませんが、その構造が倍速で観る映画にも当てはまるかについては慎重に考える必要があるように思います。まあこの発想自体が昭和生まれの意見なのかもしれませんが(笑)。タイパ重視の姿勢が文化や芸術といった空間にまで染み出している現状は、今まで社会全体で培われてきたエンターテインメントのあり方やそこに付随する価値観が大きく変わろうとしているタイミングなのかもしれません。また、効率を上げようとして様々なサービスを使った結果として、むしろ忙しさが増したという経験をした方も少なくないはずです。コロナ禍でリモートワークが一般化した状況だからこそ、生産性向上のために導入されたツールに振り回されるようなケースも増えているように思います。タイパを追い求めることで本当に効率が上がっているかどうかは、検証の余地があるでしょう」

 タイパを重視する背景には、人々の不安や焦りもあるとレジー氏は指摘する。

「拙著『ファスト教養』では、ビジネスの役に立つ情報をジャンル問わず効率的に摂取することこそが「教養あるビジネスパーソン」の振る舞いであるという考え方を “ファスト教養”と定義付けたうえで、そういった思想が広まっている背景にある社会不安を分析しています。キーワードとして「不安」「焦り」「脱落したくない」といったものがあげられますが、自己責任の考え方が一般的になっていく世の中で生き残っていくためにも「教養」で差別化しよう、周りを出し抜こうという発想が支持されやすくなっているのではないでしょうか。先ほど触れた倍速で映画を観る行動ともつながりますが、昨今はヒットした映画や古い音楽などもここで言う「教養」に含まれてきているのが特徴の1つです。「フリッパーズ・ギターを聴いておけば上司と話を合わせられる。それがある種の一般教養」といったことを説くインフルエンサーまで存在します。「タイパ」に関わる話で言えば、ビジネス書の内容を要約するサービスやYouTubeチャンネルの盛り上がりもビジネスパーソンの「効率よく情報を得たい」というニーズに応えるものです。とにかく急いで情報を得たい、深さより広さ、大枠を掴んだら次へ行く、といった行動様式に現代の社会人は追い立てられていると言えます」

 しかし、昨今では単に効率だけを重視するのではなく、内実を重視しようとするタイパも見られるという。

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