『おひとり様物語』は人生の伴走者だったーー連載17年、見事なフィナーレを見届けて

 あああ、谷川史子の『おひとり様物語』が、今年(2022)の9月に刊行された、第十巻で完結してしまった。コミックの名物である、あとがき漫画「告白物語」に書いてあるが、足掛け17年の連載だ。これだけの長期連載になると、雑誌に掲載されているのが当たり前になっていた。しかも基本的に一話読切りであり、ストーリー漫画のようなクライマックスを感じることもなかったから、いきなりの完結だと思ってしまったのである。なにか、世の中の楽しみが一つ減ったような気分だ。だから、もう少し作品世界に浸っていたくて、書評で取り上げることにした。

 単純に一人を意味する言葉として〝おひとり様〟は、昔から普通に使用されていた。そこに、精神的な自立などの、前向きな意味が与えられたのは、いつ頃からだったろうか。広く使われるようになったのは、2005年の新語流行語大賞の候補に〝おひとりさま〟が選出されたあたりからだろう。本作の連載が始まるのが2007年だが、第一巻の「告白物語」によると、新連載が決定したものの白紙状態で悩んでいたところ、テレビのドキュメンター「おひとりさま物語」を見て、テーマを決めたそうだ。その頃には、もうメジャーな言葉になっていたことが窺える。

 記念すべき第一話の主人公は、二十八歳の山波久里子。独身で一人暮らし。彼氏もいない。書店で働き、家に帰ると、DVDを見たり本を読んだりしている。典型的な、おひとり様だ。ある日、失敗や不幸が続き、ダウナーな気持ちになる。このときの彼女の心理を、作者は鮮やかに表現する。一人暮らしの楽しさと、淋しさを体験したことのある人なら、大いに同意してしまうはずだ。そんな久美子が、あることで気持ちをリフレッシュして、今の自分を肯定する。このストーリー展開が巧みである。本作は基本的に十六ページなのだが、どの物語にも窮屈感がない。ストーリーの組み立てが優れているからだ。

 もちろんそこには絵の力もある。たとえば第五話。主人公の白石百合子は、31歳のOLだ。登場時はお嬢様に見える。だが5ページ目に出てくる、両親と暮らす家の外観が描かれたコマ(セリフやモノローグで、半分しか見えないのだが)で、ごく普通の家の娘だと分かるのである。さらにいえば部屋を描いたコマで、可愛いもの好きらしいことも分かる。この話だけでなく、作者は部屋の絵で、そこで暮らす人物のキャラクターを表現するのが抜群に巧い。こうした絵とストーリーが組み合わさることにより、最後まで淀みなくページを捲り、いい話を読んだという満足感を得られるのである。

 ただし第一巻を読んだ時点で、この連載はそれほど長くないと思った。おひとり様という枷がある以上、それほど物語に変化を付けられないと考えたのである。だがそれは杞憂であった。「告白物語」で、「ここでいう『おひとり様』には〝独身〟〝特定のパートナーなし〟の他に〝パートナーはいるけど物理的に離れている(遠距離とか)〟〝パートナーはいるけれど心が離れている〟などなども含まれます」とあるように、おひとり様のレンジを広く取っているのだ。

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