『響~小説家になる方法~』『乙女文藝ハッカソン』『ものするひと』……小説家が登場する漫画3選

 夏が過ぎ、読書の秋がやってくる。一説によると、夏目漱石が小説『三四郎』に記した「灯火親しむべし(秋になると涼しくなり、夜も長くなって明かりの下で読書するのに適している)」という一文の影響から、日本で“読書といえば秋”という文化が定着したと言われている※。

 忙しい日々を過ごすなかで小説を読みたいという気持ちと、「いつか読むために」と積み上げられた本の山が共存する人も少なくないはず。本稿では小説を読みたいという気持ちが高まるような、小説を書く人物の姿を描いた漫画作品の一部を紹介したい。

『響~小説家になる方法~』

 「マンガ大賞2017」大賞に選ばれ、2018年には実写映画化された『響~小説家になる方法~』。主人公の女子高生・鮎喰響が書く小説が日本中に大きな衝撃を与えていく様子を描いた作品だ。

 響が文芸雑誌『木蓮』の編集部に送った『お伽の庭』。この作品が編集者・花井ふみの目に留まったことをきっかけとして、世の中に響の存在が少しずつ知れ渡っていく。他を圧倒する才能をもつ響のほか、小説家の父をもつ文芸部の先輩やライトノベルが好きな少女、小説で大成することを目指す作家たちなど、小説を執筆するさまざまな人物の生き様が描かれる。

 作中で響の書く小説の本文はほとんど明かされず、大まかなあらすじでしか内容をつかむことはできない。ただ響の小説を読んだ登場人物たちの感想や価値観の変化は鮮明に描かれる。

 ときに挫折した人、世の中に絶望を抱く人が響の小説に触れることで感情が動き、人生に大きな変化を生む。物語を必要とする人の喜怒哀楽、小説によって変容する人の姿を描いた本作は、小説を読んだ先にある景色を想起させてくれる作品であろう。

『乙女文藝ハッカソン』

 『響~小説家になる方法~』では響はじめ文芸部に所属する高校生が多く登場する作品であった。『乙女文藝ハッカソン』で描かれるのは大学の文藝学科に所属する女子大生の姿である。

 大学1年生・安達倉麻紀が入居した寮にはさまざまな小説を執筆する大学生が住んでいた。各々に創作活動を行い、ときにチームとしてお題に沿った小説を執筆するイベント「文藝ハッカソン」に参加したりなど、小説を書く女子大生たちの暮らしが描かれる。

 SFやミステリーなど、登場人物の趣向に応じたさまざまなジャンルの小説が登場する本作では、各作品の内容がひとつの漫画として表現される。別々の人物が書く各作品はそれぞれに画風や台詞のフォントが異なるため、作品特有の文体を感じることができる。

 作中の言葉を借りるならば、小説作品を因数分解して最後まで消えない個性が「文体」だ。文章に表れる個性を画として描いた本作は、登場人物の書く作品を比較するなかで、各小説に存在する個性や固有の魅力に気づかせてくれる。

関連記事