第167回 芥川賞&直木賞受賞会見レポ 高瀬隼子と窪美澄、それぞれの評価のポイントは?

 直木賞の受賞作『夜に星を放つ』の著者・窪美澄は、1965年、東京生まれ。カリタス女子中学高等学校卒業。広告制作会社に勤務後、フリーの編集ライターを経て、2009年『ミクマリ』で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が’11年、山本周五郎賞受賞。’12年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を受賞。‘19年『トリニティ』で織田作之助賞を受賞。

第167回直木賞を受賞した窪真澄

 受賞作は、掛け替えのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。コロナ禍を背景に描かれる「真夜中のアボカド」、「星の随に」をはじめ、5篇が収録される。

 選考委員を代表して林真理子は、「コロナ禍から早2年での新作。婚活アプリなど現代的な題材もなめらかに取り入れている。あらためて文章力、構成力、作家としての素質に敬服しました。特に“コロナ渦から逃げていない”こと、そして、“この時代、どういう小説が残るのか”ということは非常に重要です。窪さんはコロナ禍を、真正面からでなく、日常的なテーマの中にさりげなく取り入れている。実力を感じる作品はたくさんあり、すでに数々の賞を受賞していますが、本作こそ直木賞にふさわしい」と選評会での講評を語った。

直木賞について受賞作品や候補作について語る林真理子

 また候補作に長編が並ぶ中で、本作は唯一の短編小説だった。文学賞において短編は不利に働く場合も多いが、選考会では「非常に技巧がこらされており、短編のお手本のような小説ではないかという声も上がった」、「熱烈に推している選考委員も何人かおり、圧倒的な支持があった」ことも明かした。

 なお受賞には至らなかったものの、永井紗耶子の『女人入眼』も、最後まで非常に競っていたという。

 受賞会見で窪は、“コロナ禍”が選評のキーワードとなったことについて、「短編だから、枚数が少ないから楽ということはなく、むしろ長編よりも短編のほうが難しいかもしれないと年々思っています。重い感情を皆が抱えている中で、せめて小説の中では、心が明るくなるものを描きたいと出来上がった」と想いを語った。

「いま書店さんが次々にお店をたたんで、皆本を読まなくなっている。でも小説にしか解決できない心の穴、閉じることができない心の穴というのが誰しもあるんじゃないかと思いますし、私もそういう小説を書いていきたい。いま小説って、いろんなテーマでいろんなことが描かれているので、何か心に迷いがあるときは、近所の本屋さんに行って、本を読んでみてはいかがでしょうかと、皆さんにお願いしたいです」

 窪がデビューしたのは、44歳のとき。「私の場合はデビューが遅咲きで、残された時間がほかの作家さんよりも短い。残された時間の中で、直木賞受賞作家として恥ずかしくない作品を書いていきたいと思います」と語り今後の作品への展望も語り選考会は幕を閉じた。

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