『琥珀の夢で酔いましょう』クラフトビールは心を開く鍵のよう 大人たちを無理なく自然と繋いでいく

それぞれが抱える仕事への屈託

 さらに、物語の中で目をひくのは登場するキャラクターたちが抱えている悩みだ。どれも、仕事に対すること。

 周りの言葉に落ち込んだり、怒ったり、足を止めたり。職業はさまざまだが、その悩みは誰しもが体験したことがあるようなものが多い。

 そんな悩みから解放されるように、七菜たちはビールを飲む。ただ、「酒でも飲まなきゃやっていられない」というものではない。おいしいビールを飲み、おいしい料理を食べ、心をほぐし、悩みを仲間に打ち明ける。ビールは、心を開くための鍵の役割を果たす。

 それぞれが、ビールが好きだからこそ、前後不覚になるほど飲んだりしない。ほろ酔いにはなるが、酔っぱらってしまってはビールも料理もちゃんと楽しめないから。

 そして、ビールがきっかけとなったコミュニケーションはだんだんと広がっていき、それと共に七菜たちの世界は広がっていく。

 そんな都合のいい話? と思うかもしれない。そうではない。好きなものが同じ、同志の前では、人は自然と素直になれるものなのだろう。クラフトビールという奥の深い世界ならなおさらのことだ。話が尽きることはないのだ。

クラフトビールと、大人の友情と

 描かれているのはクラフトビールと、ビールが繋いだ大人の友情だ。大人になってから、どうやって友達を作ったらいいのか分からない、仲間なんて恥ずかしくて言えない……と思っている人も多いだろう。

 しかし、ほんの少し勇気を出して、視野を広げるだけで違う世界が広がる。好きなものが増えて、仲間が増える。そんな幸せを感じさせてくれる作品だ。

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