“極道漫画”は怖いだけじゃない 女性がときめく『お嬢と番犬くん』&『来世は他人がいい』
「極道」の世界を描いた漫画は、スポーツものや学園もの、SF、ファンタジーなどのジャンルのように、歴史が古く人気作も多いジャンルだ。裏の社会で生き、欲望と暴力にまみれながらも、義理と人情の世界に生きる男たちの姿は、読むものの心を高ぶらせる。SF、ファンタジーほど日常からかけ離れているわけではないが、かといって身近な日常でもない。この“劇的な日常”を楽しめるのが、極道ものの魅力ではないかと、筆者は思う。
女性読者が好む極道もの漫画でも、さまざまなシチュエーション(登場人物が置かれている状況、立場)の作品がある。そのなかで特に筆者が好きなのが、「ヤクザに拾われた男とヤクザを祖父に持つヒロイン」の話である。幼い頃から一緒に住み、ヒロインのお世話係やボディーガードとしてともに過ごす。血は繋がっていないが家族であり、ヒロインにとっては兄弟のようでも、ときには父や母でもあるような存在だ。ヒロインからすると口うるさく、喧嘩をすることもあるが、基本は敬語を使い、拾われた恩を返すという義理難さが垣間見えるシチュエーションにめっぽう弱いことに気づいた。今回はそんな作品を2つ紹介したいと思う。前者はラブコメ色強め、後者はバイオレンス色強めの作品となっている。
過保護な若頭との甘々ラブコメディ『お嬢と番犬くん』(~7巻)/はつはる
『お嬢と番犬くん』は「別冊フレンド」で連載中の人気作だ。祖父が瀬名垣組組長で極道一家の孫娘である一咲(いさく)。両親は5歳のときに交通事故で他界、唯一の肉親である祖父に引き取られ暮らしていた。これまでヤクザの孫だからとぼっちライフを極めていたが、高校生になったら友達を作って恋をする、普通の青春を送りたいと宣言。ところが、学校内の危険(主に男子生徒)から一咲を守るために、過保護な若頭·啓弥(26)は年齢詐称して同じ高校に裏口入学し、一緒に通うことになる。
啓弥は組長に拾われ、両親が他界した一咲の世話係となった。一咲に「俺が一咲さんのパパとママになります」「俺がずっとあなたを守ってあげます」と告げた啓弥にとっては、組長の孫に対する言葉だったかもしれない。しかし、それがずっと支えとなっていた一咲。血が繋がっていなくても、みんな家族。そんな家族を、好きになっちゃいけない。ヤクザに片想いをしたって明るい未来はないと悩む。一咲はそんな気持ちの行き場をなくしてしまっていた……。
本音と建前が交差する、切なく、もどかしい気持ちで読み始めた本作だったが、「好きになってはいけない」と思っている時点で、もう好きなのではないだろうか。他に目を向けようとするほど、自分のことをちゃんと見てくれている啓弥に嬉しくなってしまったり、啓弥に子ども扱いされない自分になりたいと思ってしまったり。結局は啓弥が一咲のなかの中心にあって、離れたくても離れられなくなってしまう。本当に同級生ならよかったのに……ともやもやする、ヒロインの心情にきゅん必至。
また、啓弥も一咲のことを過保護なまでに溺愛。それは組長の孫としてなのか、家族として親のような気持ちからなのか、それとも……。一咲の身に危険が迫ると、オラオラと圧倒的に喧嘩が強い場面もありつつ、仕事の合間には一咲にエネルギーをもらいに甘えてくるなど、デレデレなところのギャップもいい。
「どんな男でも俺から一咲さんをとる人間は 俺はダメです」
「一咲さんにとっては俺が世界のすべてで 俺にとっても一咲さんが世界のすべてです」
一咲と啓弥の学校生活を楽しみつつ、啓弥の一咲に対する溺愛ぶりと、一生背負うと決めた一生消えない想い、その覚悟をしかと見届けてほしい。なんだか怖そう、グロいのが苦手など、「極道もの」にあまり慣れていなくても読みやすい少女漫画である。