藤岡みなみが語る「ふやす」ミニマリスト生活 家の中で“暮らしの旅”をする
文筆家やラジオ・パーソナリティなど、多彩な活動をする藤岡みなみ氏が、新刊『ふやすミニマリスト』(かんき出版)を刊行した。
副題は「1日1つだけモノを増やす生活を100日間してわかった100のこと」。その言葉の通り、何もない部屋で所持品ほぼゼロから生活をスタート。1日1つだけものを増やす生活を実践する中で考えたことを記録している。そこで直面したのは「生きるとは?」「時間とは?」といった壮大な問いだったそう。そんな藤岡氏に、10年来の知人だというライターの神田桂一氏がインタビューをした。(編集部)
シンプルライフを始めた理由
ーー『ふやすミニマリスト』刊行おめでとうございます。今回、なぜこういったチャレンジをしようと思ったんですか?
藤岡:簡単に言うと、もともとあった「リセット願望」をこれまで以上に強く自覚したからです。スマホに依存していたり、たくさんある服から何を着れば良いかわからない状態だったり、暮らしがすべて上手くいっているとは思っていなかったので、リセットしたくなったんです。
直接的なきっかけは『100日間のシンプルライフ』という映画へコメントを寄せるお仕事をした時に、自分でもやってみたいと思ったからでした。2020年の夏の終わり頃だから、ちょうど新型コロナが流行りだして1年目の頃だったかと思います。普段のようにどんどん外に出て人に出会える時期ではなく、未来も見えない閉塞感を強く感じている時期だったから、家の中でできる挑戦がしたかったというのも理由としてあるかもしれないです。
ーー『100日間のシンプルライフ』はどういう映画だったんですか?
藤岡:今回の書籍と同じように、所持品を持たないでスタートし、100日かけて1日1個道具を増やしていくというルールで生活する内容です。映画では、主演の2人がもののない中で暮らして、どちらが先に音を上げるか我慢競争をするお話になっていました。
元は『365日のシンプルライフ』というドキュメンタリー映画があり、『100日間のシンプルライフ』はそれをベースにしたフィクション。私はドキュメンタリーのほうも知っていたので、『100日間のシンプルライフ』も実際に人が挑戦できるものとして観ました。
ものを増やすこと=自分を取り戻すこと
ーー1日1個ずつ増やしていく中で価値観は変わりそうですね。
藤岡:単純なルールだけど、毎日前提がひっくり返るような変化が起こりました。「道具があることで生活が少し便利になる」程度の変化じゃなくて、例えば、靴がないとそもそも外に行けなかったり、箸がないとご飯が食べられなかったりする。道具がないと“歩く”とか“食べる”とか、その動詞ごと奪われる感じなんです。だから、道具を手に入れると行動ごと取り戻していく感覚がすごく大きくて、今まであらゆることに無自覚に生きてきたと実感しました。
ーー印象に残った道具はありますか?
藤岡:王道部門で言うと洗濯機ですね。洗濯機があると、必要な服が少なくて済むんですよ。この冬も2着で毎日過ごしています。自分で洗うこともできるんですけど、脱水が難しい。人間がいちばん洗濯機にかなわないなと思うのは脱水力でした。
日常で使うものだと意外なところでグラスですね。3カ月くらいだったらグラスの無い生活に耐えられるかなと思っていたんですけど、飲み物をペットボトルから直接飲んでいると、だんだん自尊心が感じられなくなっていきました。「グラスに入れる」というひと手間で、自分をすごく大事にしているという肯定感が蘇るんです。そして、本や土偶など、便利さとは違うベクトルにあるアイテムがなにより重要でした。
ーーいわば、娯楽や嗜好品も重要ということですよね。
藤岡:心の栄養という感じで私には必要でした。便利に暮らすことが目的か、心を潤すために暮らすことが目的か、突き詰めていくと自分の生きる意味を考えることに近いと思うんです。100日間の中で便利なものを集めることはできるけど、集めていても楽しくない。進化しているような気はしても、何か違うんです。
本や土偶、花瓶といったものは、生活するための道具というよりも、今日というこの瞬間を味わうことにかかわってくる。この体験を通して、今後もそういう風に生きたいなって思いましたね。