出版社はTikTokをどう活用すべき? SNS研究者が指摘する、短尺動画でヒットを生むことの功罪

「WEB3.0」がキーワードに? 

SNS研究をする天野彬氏

 短尺動画化が進み、ショートムービーの可能性が広がるなか、逆に時間をかけて制作した長いコンテンツにも可能性があると見ている。 

「ゲンロンの東浩紀さんが昨年、シラスという動画プラットフォームを始めました。最近『CX AWARD 2021』という賞も取って、話題になっています。シラスで配信されている動画を見ると、5・6時間もの長い時間、ひとつのテーマで語りあっているんです。短尺動画の反対の極みというのでしょうか。しかも、哲学のような難解なテーマから、話題作のマニアックな解釈合戦にいたるまで、敷居も高そうに見えてしまう。しかし、最後まで見ると妙な達成感がある。話が脱線したり、時にループしたりするのですが、でもそれが伏線になってイベント終盤で回収されたりして感動する(笑)。いい意味で『無駄だらけ』なんです。 

 東さんがインタビューで『人がお金を払いたかったのは「文章に」ではなく「人に」なんですよ』『その意味で、しゃべるとか、動画っていうのはすごく向いてるんですよね』(PRESIDENT Online)と指摘していました。本ではなく、著者を中心に考える。著者は本に書ききれなくて、モヤモヤしている話材を実はいっぱい抱えている。それをしゃべったりして発信する場所が、すごく重要なんじゃないかと思います」 

 さらにSNSを起点としながら、コミュニティをつくることの重要性を指摘する。 

「先述したように、SNSは個のメディアなので、その人の魅力を発信して、ダイレクトな繋がりが生まれることが大事です。そして、本の書き手という人をベースにすると、人のつながりができてコミュニティも生成していく。本が好きな人のコミュニティを作っていくんですね。また、昨今流行りの言葉でいうと『プロセス・エコノミー』の取り組みにもなる。書籍という完成形だけを売り物にするのではなく、その途上も見せるような仕組みにすることで、読者の間での熱量を高めていく。そういう意味でも、シラスはよくできていると思います」 

 こうした指摘は昨今「Web3.0」と言われる考え方に通底するという。ブロックチェーンやNFTなどの分散型技術を活用して、巨大プラットフォームに依存せずに個人間でつながる考え方だ。 

「ソーシャルメディアの普及がもたらした『Web2.0』のムーブメントは個人の情報発信を容易にして、コミュニケーション環境を豊かにしました。しかしいま問い返されているのは、実質的には巨大プラットフォーマーが牛耳っており、そこではアテンション・エコノミーの原理が支配し、結局皆がバズらせたいがために、似たようなコンテンツが量産されているのではないかということ。 

 今のSNSはどれだけ多くの人に見てもらうかが重要です。多くの人が見てくれるとそこに広告価値がつく。するとバズるコンテンツをみんなが模倣していく。文化の多様性の観点からこの状況をどう判断するべきか、SNSのユーザーでもある私たち自身が自分ごととして捉えなければならないフェイズになっています。 

 では、それとは違ったエコシステムをいかにして築いていくのか。それが現在の『Web3.0』の一つの大きな目標だと思います。シラスは『Web3.0』と直接は関係ないですが、今の時代のそうした問題意識や気分を捉えたものでもあると感じます。出版社も同様に、読者とどうつながり、いかにして自分たちの創作物を届けていくのか、新しいコミュニケーション手段を駆使して、さまざまな取り組みを講じることができるタイミングだと思います」 

 動画配信サービスなどのエンタメコンテンツが大量にある今、出版社はTikTokなどのSNSの最新動向をチェックしながら、本を読まない層に向けて情報を届けることが必要そうだ。ただそれだけではなく、読書好きに向けた重厚なコンテンツ・コミュニティづくりが、これまで以上に求められていると言えるかもしれない。 

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