出版社はTikTokをどう活用すべき? SNS研究者が指摘する、短尺動画でヒットを生むことの功罪

 本の「TikTok売れ」や文学YouTuberなど「SNS×書籍」を掛け合わせたさまざまな動きが注目されている。特に昨年はTikTokで小説を紹介するけんご氏の影響力の大きさは際立った。動画の紹介をきっかけに重版をした小説は10作品を超え、筒井康隆氏の小説『残像に口紅を』は、11万5000部を増刷したほどだ。 

 2022年のこれからは、出版社はどのようにSNSを使うと新しいムーブメントを起こすことができるだろう? TikTok売れの背景、SNSの最新動向とは? 電通メディアイノベーションラボの主任研究員で、SNS研究の著作『SNS変遷史~「いいね!」でつながる社会のゆくえ~』などで知られる天野彬氏に話を聞いた。(編集部) 

SNS全体が短尺動画化している 

 天野氏は本の「TikTok売れ」の概況について、次のように考察する。 

「『TikTok売れ』は日経トレンディが選ぶ『2021年ヒット商品ベスト30』の1位になりました。食べ物や衣料、コスメなどに並んで、本や音楽などのエンタメ作品もTikTok起点で話題になり、商品が売れるということが起こりました。 

 特に本に関して見ると、TikTokという若い人が使う場で、若い人向けの小説が売れている印象を受けます。有名な例を挙げると、中学生の青春恋愛小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』。実際、それに関するTikTokの動画の音楽のつけかたや解説の仕方を見ていると、『泣けること=(若者に刺さりやすい)エモさ』を強調した解説になっているように感じました」 

 TikTok売れが目立つようになった背景には、SNS全体の質的な変化もあるようだ。 

「今、SNS全体が『短尺動画化』している傾向があります。TikTokのほかにも、Instagramはリールを始めましたし、YouTubeにはショートがあります。LINEも最近、トークのすぐ横のタブでVoomという短尺動画などが見られるサービスをはじめました。 

 短尺動画化した背景には、特に若年層の中でスマホが一番接触するコミュニケーションデバイスになったことが挙げられます。アテンションが短くなり、見るコンテンツもアプリの切り替えもすぐにパパッと行われるようになったので、それに合わせて短尺で楽しめるものを提供する必要があるのです」 

 出版社はTwitterで新刊情報などを発信することは多いものの、TikTokでの動画発信まで試みている例は少ない。そこで天野氏はまず、出版社の効果的なSNS活用の一例として、TikTokなどの短尺動画での発信を提案する。 

「TikTokは非常に狙い目だと思います。本を読むのにハードルの高さを感じるけれど、本の内容自体に興味はあるという人は実は多くいるはずです。TikTokはそういう人にも届けられるでしょう。例えばTwitterももちろん有用ですが、本と同様にテキストベースであるので、根本的には訴求できる層は変わらない可能性があります。 

 その一方で、TikTokの面白いところは、音や映像効果をつけることができること。リッチな視覚情報や聴覚情報など、テキストとは異なるモダリティでユーザーに届けられます」 

 具体的にどのような発信の仕方が良いのだろうか。 

「TikTokのコミュニケーションで一番重要な点は、本当に好きな人がその『好き』の熱意を伝えることです。本のあらすじや面白さを解説する手法など、テクニック的な部分も大きいですが、やはりその人の心が動いたという熱量が伝わる動画が拡散されます。そこに共振して態度変容が起こったり、実際に購入したりする事例が多い。  

 SNSは『個』のメディア。出版業界としても、本の書き手やそのファンといった人を起点に考えるのが良いと思います。それによって、本を手に取ってもらう。その順番はSNSで発信する上で、非常に重要なことです。今までも書店での出版記念のトークイベントがあったわけですが、それをTikTokなどのライブ配信で行うなど、人を軸にした企画の方向性はいろいろなポテンシャルがあると思います」

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