ジェーン・スーが語る、40代を楽しく生きる方法 「"思春期再び"という感じであの頃を追体験している」
自意識の病みたいなものがなくなってくる一方で、更年期が始まりつつある
ーー40代になって考え方のパターンが変わってきた部分はありますか。
スー:変わったというより、考え方のパターンが増えたことは、40代で少し楽になった理由の一つかもしれないですね。今までは自分のことばかり気になってしょうがなかったけど、相手も自分と同じように、複雑な、安定しない感情を持つ人間なんだとわかれば、人間関係も少しとらえかたが変わったり、人の話を聞いたときにも、自分なりのたとえ話に変換すると、腑に落ちやすくなったり。
ーー女性にとって40代は変化の時期なのでしょうか。
スー:女性の場合は体の変化に気づきやすいので、そこが楽しめるかどうかでだいぶ印象が変わってくると思うんです。初潮から始まって月1回の生理など、体に振り回されることに女性は慣れているわけですが。それでも40代になると、自意識の病みたいなものがなくなってくる一方で、更年期が始まりつつあるじゃないですか。昔、ちょっと上の先輩が「全部更年期」とチートしていたんですよ。そのときは絶対嘘だと思ったのに、でも今、私はそれが楽しくて、いろんなことに対して「更年期だからしょうがないんだよね」とか言って全部チートしていくのが楽しくて。私はこれまでブレずに生きるために、すごく精神を鍛えて生きてきたんですが、更年期になると、ちょっとしたことで気持ちがブレたり、わけもなく悲しくなったり腹がたったりということが自分の身に起こるようになって。寂しいとかいう感情を持つのも、たぶん小学生以来だと思うんですけど、明らかに今までと違って「ヤバイ、超楽しい」と。
ーーどこか遠くから俯瞰で今の状況を見る感じでしょうか。
スー:いや、達観している感覚よりも、どっぷりエンジョイできるんですよ。辛い曲を聴いたり、悲しい映画を観たりして、泣いたり。今まで処世に不便だからと、ぎゅっと閉めてきた蛇口が勝手に緩むようになって「うわー、またきたー」と。
ーーホルモンに振り回される楽しさでしょうか、
スー:そうです、そうです。"思春期再び"という感じで。あのときのモヤモヤした気持ちや、思い通りにいかなくてプンプンしていた感じをもう1回追体験できいてるので、すごく楽しいです。超メランコリックだと思って。よよよと泣いたり、「何に泣いてるんだっけあたし?」というのを楽しんでいます。もちろん体調が悪くなったり、頭痛があったり、体調の変化も出てくるわけですが、そこは逆に「50歳過ぎたら体力がもっと落ちてくるのだから、ここらへんでこなせる仕事のボリュームを考えなさいよ」と言われているんだろうなと思って。
ーー40代は仕事の物理量も増え、責任も増えて、その一方で体のあちこちが悪くなってきて、「人生の後半戦にこの不調を全部連れていくのか。人生長いな~」と途方に暮れることもあります。
スー:でも、50代後半の人などに聞くと、不調が抜けると言うので、また楽な時期がやってくるのかなと思うんですよ。それに、今の不具合だらけの中でエンジョイの仕方を体得するつもりで、私は第二思春期を"思春期キッザニア“みたいな感じで楽しんでいます。
適正な仕事量とか仕事の質を見極めることも大事
ーースーさんは、コロナ禍で「推し」も見つけたそうですね。
スー:どのタイミングでどうきたのか、自分にも全く分からないんですが、仕事もプライベートも疲弊することが多かったときに、突然目の前に天使が、という感じでした(笑)。
ーー「推し活」も、実は思春期の、恋の手前のような感覚でしょうか。
スー:最初は本当にそうでしたね。そこから母のように「産んだか?」と思えることもあって。物理的に産めないんですけどね。「司祭」みたいになるときもあるし、「神」みたいになるときもあるし、いろいろですね。私の場合、子どももいないし、家庭があるわけでもないので、そこで不足しているものを補う感じではないですが、自分の生活に新たに乗っかってきたものではありますね。どこかが欠けていて、そこを埋めたのではなく、自分の生活に新たに覆い被さってきた新しいコンテンツというか。
ーー50歳を過ぎてから、人生後半戦を明るく楽しむコツも教えてください。
スー:ある程度のお金を貯めて、あとは分からない先のことで悩みすぎないことじゃないですかね。特に何かを調べたり検討したり行動をおこしたりするわけでもなく、ただ膝を抱えて部屋で心配しているのは、何も産まないと思うので、興味のあることや楽しいほうに自分が引っ張られてみることかな。
ーーしんどさを楽しむコツはありますか。
スー:全部我が事としてとらえず、軸をずらすことじゃないですかね。しんどい、起きられない、やらなきゃいけない仕事が山積みでもう嫌だとかいうことは誰にでもあるし、私ももちろんあるんですけど、それを自分事として受け止めすぎると落ちちゃいますよね。でも、「ああ、そういう年代なんだな」「この八方塞がりな感じは前もあったな」みたいに俯瞰で見ることが楽になる方法の一つかもしれないですね。
ーースーさんご自身は、50代60代をどんなふうに過ごしたいですか。
スー:ワークライフバランスという言葉が言われるようになって、最初は何のことやらと思っていたんです。私の場合、ワークが充実していることがライフを充実させることとほぼほぼイコールだったんです。でもここ1年、ワークを頑張りすぎることでライフががりがり削られていく音を如実に聞くようになってきたので、自分の中の価値観を変えないと、今までと同じ幸せな感じにはいられないんだろうなという予感はしています。だから、適正な仕事量とか仕事の質を見極めることも、これからは大事になっていくだろうなと思います。
ーーワークにライフががりがり削られないためには、どんなことを指針にすれば良いでしょうか。
スー:基本的に物量をちょっと減らしたぐらいじゃどうにもならないことがよく分かったんですよ。2021年に半分試運転してみたんですけど、ちょっと仕事を減らしたぐらいじゃなんともならない。ライフ自体のとらえかたを変えないと。今までなら、いただけるものをなるべくたくさんきちんとやるみたいな感じでしたが、社会とのコミットの仕方を考えなきゃいけないなと。そうなると生活のスタイルも変えないと、普通に半分以下の収入になったらどうなるんだという話ですし、考え中です。
ーーコロナ禍で選択肢ができたかわりに、物理的にオーバーワークになっている人も多いですよね。
スー:途切れ目もないし、気分転換するポイントもないんですよね。つなぎ目のない生活は結構きついですから。田舎に引っ越せば解決するものでもないだろうし。シフトチェンジを考えながらこの1年、2年やってくつもりです。