『ときめきトゥナイト』市橋なるみはなぜ第2部のヒロインに? その重要な役割を考察

 「りぼん」で連載されていた異世界ロマンス少女漫画『ときめきトゥナイト』。人間界に住む魔界人の人生を描いた本作は3部作構成で、第1部は少女漫画界屈指の絶対的ヒロインの江藤蘭世、第2部は江藤蘭世の弟 江藤鈴世のガールフレンドである市橋なるみ、第3部は真壁(江藤)蘭世と真壁俊の娘である真壁愛良が主役となっています。 

■『ときめきトゥナイト』記事
『ときめきトゥナイト それから』江藤蘭世はなぜ人を虜にし続けるのか? その魅力を考察
『ときめきトゥナイト』真壁俊との再会は喜ぶべきか? 初恋相手の“その後”への煩悶

 本シリーズのオリジナルを牽引した江藤蘭世が少女漫画を代表する伝説の存在であることは、すでに過去のコラムで何度か触れました。そんなヒロインの後をついだのは、魔界人でなく、単なる人間の少女でした。市橋なるみは幼い頃に重い心臓病を患って入院していたところ、そこに訪れた江藤鈴世と知り合って意気投合し、恋仲に。このエピソード以降、目立った展開はなく、おとなしいガールフレンドの位置付けでしかありませんでした。

 そんな市橋なるみが、なぜヒロインに抜擢されたのか? 彼女は『ときめきトゥナイト』ユニバースにどんな空気を送り込んだのかーー。今回は、オリジナルのファンからバッシングを受けた不遇なヒロインを掘り下げたいと思います。

大人の事情でスポットライトがあたった

 『ときめきトゥナイト』の第2部が始まったのは、大人の事情があったからだそうです(「ときめきまんが道 ―池野恋40周年本― 下」参照)。蘭世と俊の物語を描き終えた池野恋先生に「続編を」と連絡が入りました。先生は鈴世を主役にした物語を提案したのですが、読者の大半が少女であり、鈴世には共感できないだろうと却下されてしまいます。そこで生まれたのが、なるみ主役案でした。

 ところが冒頭で触れた通り、市橋なるみは主役として物語を引っ張る性格をしていません。そこで、池野恋先生は、市橋なるみが幼い頃、死の間際に死神ジョルジュの手によって魂の手術を受けていたことを思い出しました。彼女は、「殺しても死なない」と言われた神谷曜子の魂の一部を体内に取り込んだことで命を繋いだのです。臓器移植した人が、臓器の持ち主の記憶や性格を受け継ぐことがあることから、市橋なるみが神谷曜子の元気で活発な性格を一部受け継いだ可能性があるのではと、第2部連載開始時になるみの性格を活発に方向転換したそうなのです。

歓迎されないヒロイン

 蘭世と俊の結婚式で幕を開けたなるみ編ですが、ファンからは辛辣な言葉がかけられたそうです。ファンにとって「ときめき」=蘭世だからということもありますが、彼女が共感されにくいヒロインだからという面も否めません。

 というのも、読者の大半が恋心というものを理解し始めたばかりといった年齢の少女にもかかわらず、市橋なるみはすでに鈴世と両思いで、恋を成就させるまでのドキドキハラハラを読者と一緒に経験していくことができないのです。

 また、彼女には主役としての華やかさが不足しています。サブキャラとして生まれた市橋なるみは、名前からしてしっかりと練られた印象がありません。江藤蘭世の場合、フランス語のエトランゼという「異国の人」や「旅人」という意味からきていますし、彼女の永遠のライバル 神谷曜子ですら、声優 神谷明氏の神谷と曜の字を使いたかったという池野恋先生の思いが込められているのです。

 学校でもどちらかというと地味キャラで、むしろ注目されるのは彼氏である鈴世。乱暴な言い方をして仕舞えば「学園のアイドル 江藤鈴世が選んだ地味な女」が市橋なるみなのです。

関連記事