藤本タツキ短編集『17-21』から読み解く作家性 “圧倒的な暴力”を描く

 『恋は盲目』は、月刊誌『ジャンプSQ.』(集英社)の第5回クラウン新人漫画賞を受賞した商業誌デビュー作。物語は、後輩のユリに告白するために生徒会長が一緒に帰宅しようとすると、次々と邪魔が入るというコメディ漫画。最初は教師に呼び止められ、次がナイフを見せて「金だせよ」と脅迫する通り魔のおじさん、最後は地球を壊すために降臨した宇宙人と、困難のレベルがスケールアップしていくのだが、唐突に現れて主人公に襲いかかる存在が「通り魔」と「宇宙人」というのが藤本タツキならでは。

 本書の「あとがき」で藤本は東日本大震災の復興支援ボランティアに参加した時のことについて書いている。作者には17歳の時からずっと無力感のようなものがつきまとっており、悲しい事件がある度に「自分のやっている事が何の役にも立たない」という感覚が大きくなっていったという。唐突に訪れる暴力によって登場人物があっけなく死んでいく『チェンソーマン』の展開には「作者の震災体験が強く反映されているのでは?」とずっと思っていたので「あとがき」を読んで、一つ謎が解けたように感じた。

 本作の「宇宙人」は『チェンソーマン』で言うと悪魔と近い存在だ。人智を超えた圧倒的な暴力の象徴であり、地震や津波といった天災を具現化した存在だと言える。対して「通り魔」は人間による暴力だが、本作では弱々しい情けない男として描かれている。『佐々木くん~』に登場する銃を持った青年が、佐々木くんと同じ先生を好きだったことを考えると、彼の描く通り魔には「いつか自分もそうなってしまうのではないか?」という不安が強く投影されているようにも感じた。『ルックバック』にも実際の事件の犯人をモデルにしたと思われる人物が登場するが、『17-21』を読むと、彼が「通り魔」に“なってしまった”人間を描き続けていたことがよくわかる。

 最後に収録された『シカク』は、殺し屋の少女・シカクの物語。ノータイムで相手を殺そうとするぶっ飛んだヒロインは『チェンソーマン』に登場する女性たちの原型と言えるが、作者にとっては女性もまた暴力的存在だろう。「怪物のような女性とどう生きていくか?」というテーマも、その後、繰り返し描かれている。

 「デビュー作にはその作家の全てが詰まっている」とよく言われるが、藤本タツキがデビュー当初から「唐突に訪れる圧倒的な暴力」を描き続けてきたことがよくわかる短編集だ。

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