無防備さこそが最大の魅力? ジャンプ期待の青春ラブコメ『アオのハコ』が捉える”きらめき”

 「週刊少年ジャンプ」で連載されている三浦糀の漫画『アオのハコ』(集英社)は、一年上の先輩に恋する少年の気持ちを描いた青春ラブストーリーだ。

 中高一貫のスポーツ強豪校・栄明中学高等学校のバドミントン部に所属する猪俣大喜は、バスケットボール部に所属する一年年上の先輩・鹿野千夏に片思いしていた。

 千夏先輩はバスケ部の時期エースで、実力だけでなく人柄もスター性も兼ね備えた人気選手で憧れの存在。少しでも近づきたいと大喜は思っていたが、ある日、千夏先輩は両親が海外転勤となり、一人日本に残ることに。そして母親同士がバスケ部時代のチームメイトだった縁で、大喜の家に同居することとなる。

 周囲には内緒で同居生活が始まるという定番のシチュエーションで『アオのハコ』は幕を開ける。しかし、漫画らしいお約束と言えるのはこれぐらいで、それ以外の漫画的設定は抑制されている。

 大喜はバドミントンの天才でも超能力を持っているわけでもなく、異世界から謎の美少女がやってくるわけもない。ファンタジー要素は皆無で近年の恋愛漫画では定番化している複数のヒロインが主人公を取り囲むハーレム状態にも(今のところ)ならない。漫画として欲望の描き方が禁欲的で「こんなに無防備な作りで漫画として成立するのか?」というのが『アオのハコ』の第一印象だった。

 しかし、ジャンプではすでに人気作となっており、コミックス1巻も発売してすぐに10万部の重版が決まった。漫画読者としては面白がりながらも、ジャンプ読者としては、あまりにも異例の作りなので「なぜこれが受けるのだろうか」と、困惑しているというのが、本作に対する正直な気持ちだった。

 だが、まとまった1巻を読んでいると、むしろこの「無防備さ」こそが、他の作品にはない本作最大の魅力ではないかと思えてくる。読んでいて強く感じたのは登場人物の瑞々しさだ。中でもこの1巻では、千夏先輩の存在が大喜の目線を通して魅力的に描かれている。

 千夏先輩に憧れる大喜の姿を見ていると、先輩たちがやけに大人に思えた学生時代のことを思い出す。1~2歳の年齢差は、大人になるとあまり気にならなくなるものだが、学生時代には大きな差に感じ、一学年上の先輩というだけで相手が凄く大人に見えたものだ。特にスポーツ関係の部活動に所属していると「先輩/後輩」という立場の違いが、絶対的な価値観として響いてくる。そういった学生時代にしか存在し得ない感覚の描き方が、本作はとても上手だ。

 例えば、千夏先輩が同級生の針生から「ちー」と呼ばれている場面を見た大喜が「羨ましいぃぃぃぃぃ!!」と思いながら走る場面。後輩の大喜の目に映る千夏と、同級生の目に映る千夏が違うということを「呼び名」で表現したリアルな名シーンだが『アオのハコ』を読んでいると、今は忘れてしまったもどかしい感情を思い出す。そのため、懐かしさと同時に恥ずかしさが襲ってくるのだが、それ以上に、こういう気持ちをリアルタイムで感じている大喜のことが、とても羨ましくなる。つまり、千夏先輩に対する大喜の一途な気持ちを通して10代の時にしかない心情を追体験できることが『アオのハコ』の魅力ではないかと思う。

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